Letters

  ルシウス・マルフォイより
            F・マルシベールへ       1975年7月某日


 貴様が手紙を寄越すとは珍しいと思ったら、用件しか書いていなかっ
た。ふくろう便ではなく、ハウスエルフが持参したところからして緊急の
様だから、手紙で所望の品はうちの薬品庫に揃っていたので、この手
紙と一緒にハウスエルフに持たせる。何か面白いことがあったようだな。
こういう私の勘は当たるんだ。礼はいいので、今度おしえてくれ。必ず
だぞ。




F・マルシベールより
        ルシウス・マルフォイへ            1975年8月某日


 この間は、急な頼み事をしてしまいすまなかった。面白いかどうかは知ら
ないが、頼みを聞いてくれたのだから、事の顛末は説明しよう。
頼んだ薬品は、あるポーションを作るのに必要な材料だったのだ。聖マン
ゴで診察してもらうわけにはいかなかったのでね。
 怪我人は俺で、加害者はセブルス・スネイプだった。ときくと興味が沸い
たか?いや、ちょっとした遊びだったのだ。
 最近、奴が開発した「セクタム・センプラ」という呪文について、手紙でや
りとりしていたのだが、あの男の呪文の組み方のセンスには意表を突かれ
るものがある。
貴様も知っての通り、呪文というものは、呪いをかけたい内容を正確に表
現していなければ効果的に作用しない。もちろん呪者の能力によっても
結果に差がでるものだが、そもそもの呪文の精度というのが重要なのだ。
あいつの呪文は、まず実現したい結果が明確であり、それを表す原語の
選び方、組み合わせ方が絶妙なのだ。一見シンプルなのだが、それは研
ぎ澄まされた刃と同じで隙がなく鋭い。
 時間が空いた時に俺の部屋に招んで(カフェで話す内容ではないから
な)、二人で議論していたのだが、どの程度の威力なのか実際に確かめた
くなったのだ。セブルスは、例のグリフィンドールどもで試してみるつもりら
しかったのだが(というより、あいつら対策で開発したのだろう)、俺は俺に
かけて見ろと言った。かなり酔っていたし、セブルスのことを少々侮ってい
た事も認める。多少怪我をするかもしれないが、実際に呪いを受けてみた
方が分析もしやすいなどと考えていたのだから。
渋るセブルスを説き伏せ、杖を構えて向かい合ったところまでは覚えてい
る。簡単な防御呪文も唱えておかなかった自分の甘さには苦笑するほかな
い。気がついた時には、何かで顔がべったり濡れて目もあけられず、息苦
しく口の中は鉄の味がして吐き気がした。それから朦朧とする意識のなか
優しい歌声に包まれて微睡んでいると最悪の気分が晴れていき、意識が
戻ってくると、自分の血で窒息しそうになっていたのだとわかった。セブル
スは血塗れの私を膝に抱き、回復呪文を唱えていた。低く囁くような、それ
でいて歌っているような美しい節回しの呪文だったよ。みるみるうちに体中
の傷がふさがり回復していくのが感じられたが、歌声が名残惜しくてしばら
くじっとしていた。セブルスが大きな傷はふさいだが、体の中に受けたかも
しれないダメージを回復させるポーションを作りたいというので、家にない
材料を分けてもらいに貴様のところにハウスエルフを使いに出したのだ。
実際、セブルスの回復呪文の効果で、俺の体はいつも通りとはいかない
までもかなり楽になっていたし、気分もよくなっていたのだが、青ざめた
セブルスが俺のそばを離れないので、わざとソファに横になってじっとして
いた。何故か知らないが、ずっと心配させておきたくなったのだ。
 あれほど強力な呪文を編みだし唱え、それでいてあの聖マンゴの熟練
癒者にも優る美しい回復呪文を歌う能力を所有しているとはなんと複雑な
男なのだろうな、セブルス・スネイプという男は。
セブルスが拵えてくれたポーションを飲み、二人とも血だらけになっていた
ので、交代で汚れを風呂で洗い流してから、俺は寝台で休んだ。セブルス
は長椅子で仮眠しながら一晩中付き添ってくれたようだ。俺が目を覚ます
と、必ず気づいてポーションを飲ませてくれたから。セブルスが、気分や、
体の痛みについて質問してきた時には答えたが、あまり話さなかった。
 翌朝、セブルスが帰るときに、この呪文はきわめて実践的だと伝えた。
回復呪文の出来も素晴らしいが、無闇に使わないようにしろと忠告してお
いた。俺はグリフィンドールのアホどもが出血多量で死亡しても別にかま
わないが、あの美しい歌声はあいつらにはきかせるのは惜しい。



                                     (2011.6.23) 

 


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