L'Amant 9

鋏で黒髪を切っていると、遠い昔の出来事を思い出す。出会った
頃、セブルスは小柄な痩せた少年で、私は青年になりかけていた。
「こんなものだろう」と声をかけると、セブルスは鏡で仕上がりを確
認もせずに私に「さっぱりしました」と礼を言った。身だしなみに無
頓着なところは昔と少しも変わっていない。今夜、私がセブルスの
髪が少々伸びすぎて毛先が跳ねていることに気づいて、切ってや
ろうと申し出ると、セブルスは机の引き出しから鋏を出してきて、
素直にソファに座った。昔、ホグワーツで同室だった頃、いつも私
がセブルスの髪を切っていた。
私が杖を振って床に散らばっているセブルスの髪を消すと、セブル
スは、「私が片づけておくからいいのに」と言った。「いや、もう家に
はハウスエルフがいないのでね。散らかしたら自分で片づけろと
ナルシッサに言われている」と半分冗談のつもりで話すと、セブル
スは吃驚した表情になってから、可笑しそうに唇を緩ませた。
「貴方は意外に世話やきなんですよね。昔から親切だった」
「気に入った人間に限るがな」と苦笑まじりに答えると、セブルス
は肩を竦めた。
「紅茶を入れましょうか?それともアルコールにしますか?」と尋
ねられたので、「紅茶を」と所望すると、セブルスはキッチンに行き、
茶道具の載った盆を持って戻ってきて、手早く熱い紅茶を入れてく
れた。
「生憎、ミルクを切らしていて」と詫びられたが、セブルスの淹れて
くれた紅茶は香りがよく美味しかった。淹れ方が上手いのだろう。
向かいで紅茶を飲んでいるセブルスに、
「散髪した礼をくれないか」と言うと、怪訝な表情をされた。
「キスがいい」と口づけを強請るとセブルスはあきれた顔になった
が、立ち上がって傍に行き、顔を寄せると顔を上げて私に口づけ
た。軽く唇を触れ合わせてから、一度離れて、また口づける。優し
く唇を擦り合う。
「何の価値もないでしょう、私とキスしても」
「そんなことはない」そう言いながら、セブルスの頬や顎を唇で撫
でた。セブルスは擽ったそうに眉を顰めたが私の好きにさせる。
髪は伸ばしっぱなしだし、ミルクは切らしている。暫く、この家を訪
ねる者はおらず、セブルスは無聊をかこっていたに違いない。私の
指はシャツをトラウザーズから取り出したところからそっと忍び込ん
で滑らかな膚の上を探りだしているが、侵入は既に許されている。



 セブルスは私が教えるまで何も知らなかった。まだ無垢であって
当然の年頃だが、セブルスは無知を恥じていた。マグルの父親は
息子に大人になり方を教えたりしないらしい。とはいえ、魔法使い
の私の父も息子に面と向かうのが照れくさかったのか親友に一人
息子の性の手ほどきを依頼した。彼の人の薫陶がよかったのか、
私は学生の身でありながら、飽きるほどに十分な経験を既に積ん
でいた。私がセブルスに自分たちの股についている排泄器官であ
る性器について説明すると、セブルスは戸惑った表情で聞いてい
たがよくわかっていない雰囲気だった。私が手で導いてセブルス
に性器での快感の得方を教えると、まだ幼さを残した身体は私の
膝の上で快感を覚え震えた。顔に優しく口づけて落ち着かせると、
セブルスはひどく恥ずかしそうだったが、恐々私の愛撫を受け入
れた。後から気づいたのだが、セブルスは性器への刺激よりも、
私に可愛がられることに、恐れとそれを上回る期待を抱いていたの
だと思う。
 私がセブルスに性の手ほどきをしたのは、要するに手っとり早か
ったからだ。私にセブルスの関心を向けさせ、親しくなるために。


(2013.10.18) 

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