L'Amant 8

 クリスマス休暇が終わり、ホグワーツに戻ると休暇中の浮ついた
気分は何処かに消え失せ、それなりに真面目な学校生活が始まっ
た。私には縁談が持ち上がっていたので、両親からそろそろ落ち
着くように言われていたにも関わらず、連日のパーティで悪友たち
と集っていると、つい羽目を外して不品行に耽ってしまっていたの
で、ここ数年と同じく愉快で退屈な数週間だった。ホグワーツの
大広間で、色の褪せた古いローブを纏ったセブルスの姿が目に
入った時、何故かこの場所に帰ってきたという気がして、我ながら
苦笑したが、セブルスは私を認めるとすぐに傍まで来て挨拶した。
「お久しぶりです。ミスター・マルフォイ。あの、ありが…」と、言い
出したセブルスの唇に人差し指を当てて、
「久しぶりだな、セブルス。ルシウスと呼ぶように言っているだろう」
と笑いかけ、目配せすると黒い眸は私の意図を正確に読みとり、
素早く口を噤んだ。しばらく見ないうちにセブルスは少し背が伸び
たようだったが、折角、食事に気をつけてやっと増やした体重が
減ってしまったようだったし、顔色もあまりよくなかった。
「校長の退屈な話を拝聴しなければいけないから、席に着こうか。
セブルスは私の横に座れ」
私は食事の時間になったら、セブルスの皿に栄養があるものを
どんどん取り分けてやろうと考えながら、校長の偽善的な説教を
聞き流していたが、セブルスは真剣な表情で聖ニコラウスに酷似
している老人の説教を聞いていた。ちらりとセブルスを見てみる
と、髪もずいぶん伸びてしまっているので、また切ってやろうと考
えた。休暇中、ろくに櫛を入れたり、洗ったりしていないに違いな
い。セブルスは年齢と育ちのわりに言葉遣いは堅苦しいくらい正
しいのだが、身なりに構わなさすぎる。そういうところがグリフィン
ドールの悪餓鬼どもに目を付けられてしまうのだ。
「おかえりなさい、ルシウス」
自室の扉を開けると同時にセブルスに声をかけられた。どうやら
私が部屋に戻るのを待ちかまえていたらしい。まだ古びたローブ
を着たままだ。
「セブルスの方が早かったな。私はスラグホーンに捕まってしまっ
てね」
スラグホーンは私の婚約について探りを入れてきたのだが、生
憎、禿のセイウチを喜ばせる情報は持ち合わせていなかったの
で、適当に誤魔化しておいた。
「これ、ありがとうございました」
セブルスは革表紙の分厚い本を大切そうに抱えて、私を見上げ
た。既に付箋が幾つも貼り付けてある。
「気に入ったか?誕生日プレゼントだ。セブルスはそういうものが
好きじゃないかと思ってね」セブルスは大いに気に入ったという
より、ひどく感動した表情で、本に載っている呪文の内容の素晴
らしさについて夢中で話し出した。セブルスは学問のことになると
他が見えなくなるのだ。セブルスの誕生日に梟にうちの書斎に
眠っていた確か曾祖父のものだった魔術の稀少本を届けさせた。
セブルスの家に荷を届けた梟は何故かひどく汚れて帰ってきた
ので、しもべ妖精が念入りに洗って元の姿に戻したらしい。セブ
ルスがどのようなところに住んでいるのか知らないが、梟には
過酷な環境らしい。誕生日のプレゼントといっても、私としては
本当はセブルスにもっと別のものを贈りたかったのだ。セブルス
の着ているものも持ち物も全部捨てて新調したらよさそうなもの
ばかりだし、そういうものを私の趣味で選ぶのはおそらくとても
楽しいに違いない。しかし、セブルスが喜ぶとは思えなかったの
で諦めた。喜ばれないものを押し付けても仕方ない。
久しぶりに二人で向かい合って、私が淹れた紅茶を飲みなが
ら、新しく得た知識に興奮しているセブルスの熱の籠もった話
に付き合っていると、こういう時間の過ごし方も悪くないものだ
と思える。私が、人の内面に興味を持ったのはもしかするとセ
ブルスが初めてかも知れない。セブルスは私が今まで付き合
ってきた者たちと全く違う。風変わりで面白い。
「おや、もう遅いな。そろそろ休むか」と、セブルスに声をかける
と、セブルスもはっと我に返って、テーブルを片づけ始めた。
「そのままにしておけばいい。しもべ妖精が片づけるから」と言
っても落ち着かない様子のセブルスに近づき、そっと背後から
抱きしめると薄い身体が緊張した。セブルスの身体に腕を回し
たままソファにもう一度座る。安心させるように細い身体に手
のひらを這わせて撫でた。膝の上に乗っている身体はとても
軽くて重さを感じないほどだ。するりと手を差し入れて布の上
から股間を押さえると、小さく息を呑む気配があった。
「休みの間、自分で触った?」黒い髪が左右に揺れた。
「本当か?それでは調べてみよう」布の上から幼い性器を軽
く揉むと、セブルスの呼吸があらくなる。「おや、反応が早いな。
セブルスは感じやすいね」黒髪を鼻と唇でかき分けて細い首に
口づけると、快感で敏感になっているのか、セブルスはか細
い声を上げた。
「そう、気持ちよい時は声を出しなさい」耳の皮膚を擽るように
囁きかける。
「下着に滲みだして濡れてきたね。もう脱いでしまおうか」
セブルスのズボンと下着を脱がせてしまうと、膝に乗せた
まま、左手で細い腰を抱きながら、右手で性器を包んで扱い
た。
「自慰なんて誰でもすることなんだから恥ずかしがることはな
いんだよ」刺激に耐えきれず、あっ、あっと可愛い声で鳴く
セブルスに言って聞かせる。他人の手で射精させる行為は
自慰ではないが、セブルスにはわからないだろう。私が手ほ
どきをする体裁でセブルスの性器に快感を教えるまでセブル
スは性的なことに無知だったから。一際強く性器を擦るとセブ
ルスはあっけなく果てた。震える身体に体温を与えるように
抱きしめていると、セブルスの呼吸は落ち着いた。
「休みの間、あの幼なじみの子には会ったのか?グリフィ
ンドールの美少女」
「リリー?」セブルスは唐突な私の問いに驚いた声を出した
が、私に背中を向けたままだ。
「そう、近所なんだろう?」
「会いませんでした。子どもの頃とは違いますから」
「ふうん、そうなのか。あぁ、今日は濃いね。私がまたしばら
くセブルスの手のかわりをしてあげよう。気持ちよかっただろ
う?」そう言いながら軽く細い首に口づけると、セブルスはこく
りと素直に頷いた。どこか稚気な仕草が可哀想で可愛いくて
黒髪に顔を埋めると、セブルスの皮膚から不思議な匂いがし
た。それはまだ幼い甘さを残しつつ、繁殖を誘う蜜の匂いが
微かに含まれていた。

(2013.9.17)
 

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