L'Amant 10

 寮の自室に戻ると、いつものようにセブルスが机に向かって勉強
していた。私に気づき、振り返ったセブルスの額に白い包帯が巻か
れていたので、すぐに声をかけた。
「セブルス、その頭はどうした?あいつらにやられたのか?」
グリフィンドールの悪餓鬼どもを停学処分にする方法はないものか
と内心舌打ちしながらセブルスに近寄ると、セブルスは「違います」
と慌てて否定して説明しだした。
何でも梟小屋で、ある梟がいきなりセブルスの頭に止まったらしい。
止まり木と勘違いしたのか、悪戯なのかわからないが、猛禽類の
鋭い爪で頭を掴まれたものだから、セブルスの額の皮膚が傷つき
流血した。しかし、梟の持ち主がその場でセブルスに謝罪し、手当
もしてくれたのだという。
「ハナハッカのエキスを塗ってもらったので傷はほとんど消えてしま
ったし、痛くもないんですよ。でも、ミスブラックが大事をとったほう
がいいと仰って包帯を」
「ナルシッサの梟だったのか?」と私が驚いて尋ねると、セブルスは
こくりと頷いた。以前もセブルスと一緒に歩いている時に、梟に手紙
を託した帰りのナルシッサに出会ったことがあった。ブラック家で何
か揉め事があって家と頻繁に文通しているのだろうか。心当たりが
なくはない。
セブルスは私とナルシッサが婚約予定の間柄だということは、この
間話して聞かせたので知っている。私たちが婚約予定の間柄であ
りながら、殆ど会話を交わしたことがないと言うとひどく驚いた顔を
していた。
「結婚すれば死ぬまで共に過ごすのだから、予め知り合っておく
こともあるまい」と私が言うと、「そういうものなのですか」とセブル
スは相槌を打ったが、よく理解できていないようだった。私はナル
シッサとろくに話したことがないが、明日、結婚することになった
としても、うまく一緒に生活していける筈だ。ナルシッサはマルフ
ォイ家の妻がどう振る舞うべきか教育されているし、私も純血の
中でも最も古い名家の一つであるブラック家出身の者にどのよう
に対応すべきか心得ている。私たちは釣り合いのとれた組み合
わせだ。婚約が先送りされたのは、ナルシッサの姉がマグルと
駆け落ちしたからだ。いや、マグルではなくマグル出身の魔法
使いだが同じ事だ。この瑕を巡って、両家が調整しているところ
なのだ。他をあたるという選択もないではないが、結局、父が譲
歩することになるだろう。孫にブラック家の血が半分流れている
に越したことはない。
「セブルスは家に梟を送りに行ったのか?学校の梟ではなく、私
の梟を使えばいいのに」と、セブルスに話を戻すと、セブルスは
「いえ、僕は友達の付き添いで梟小屋に」と少し顔を赤らめた。
私の脳裏に、グリフィンドールの華やかな花の名を持つ少女の
姿が浮かんだ。
「ふうん、まぁ、セブルスもたまには家に手紙を送るといい。梟
はいつでも貸すぞ」と話しかけると、セブルスはほっとした顔で
頷いた。身を屈めて、軽くセブルスに口づけてから、大広間に
夕食に行こうと誘った。セブルスは口づけくらいにはようやく免
疫ができたようで恥ずかしがらずに唇を重ねてから、すぐに机
の上の本を片づけると、ローブを整え、私と一緒に部屋を出た。
 あの頃、ナルシッサは意図的にセブルスに接触していると思っ
ていた。婚約者候補のお気に入りにさりげなく探りを入れてい
るのではないかと。その予測は当たっていたが、見当外れで
もあった。私とナルシッサは確かによく似ていたが、まるで違っ
てもいたのだ。

(2013.11.17)

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