L'Amant 21

 スピナーズエンドのセブルスの生家を訪問していた時のことだ。
何度か訪問を重ねているうちに、私はマグルの家の狭苦しさが
気にならなくなっていて、今では親しい者と暮らすのならば居心
地がよいかもしれないとすら思い始めている。手を伸ばせば触
れられる距離感というものは悪くない。ハウスエルフがいない
ので部屋が埃臭いのには少々閉口しているが、セブルスが手
ずから紅茶を淹れてもてなしてくれるのは嬉しいものだ。
「こんなものが見つかりましたよ」
私がミルク入りの紅茶を味わっていると、セブルスが書斎から
一冊の古びた魔法書を持ってきた。
「ほう、中世の呪文集か」
私の反応に、セブルスは愉快そうに笑った。
「昔、貴方が私にくれたものですよ」
「そうだったか。うちの曾祖父は稀少書を集めるのが好きだった
からな。図書室で見つけてセブルスが好きそうだと思ったのだ
ろう」
「それだけじゃなくて、その中にこんな写真が」
そう言いながらセブルスが細く長い指でページを繰ると、数枚の
古びた写真が飛び出してきて、私の手元にひらりと舞い降りた。
一枚を手に取ると退色してしまっている紙の中で、私とセブル
スはホグワーツの黒のローブを纏って立っていた。セブルスは
まだ成長期に入る前で私よりかなり背が低い。若い私は、まだ
幼さの残っているセブルスの肩を抱いて不遜に笑っている。
自分が人並み以上だという自惚れが顔面に出ていて、我なが
ら自分の根拠のない生意気さが恥ずかしい限りだ。セブルスの
方は、何とかカメラから顔を背けようとしては、私に正面を向かさ
れている。髪を肩のあたりで切り揃えていて可愛らしい。これは
おそらく私が卒業した時に撮影したものだ。朧気に記憶が蘇っ
てきた。
「これはウィルクスが撮影してくれたのだったな」
私は遙か昔の記憶を手繰り寄せた。
「そうです。こちらはミス・ブラックと貴方と私が一緒に」
セブルスはナルシッサの事を懐かしい呼び方をした。
ミス・ブラック。
「三人とも若いな。当たり前だが」
 私とナルシッサに挟まれて、少年セブルスは困惑した表情で
立っていた。私が写真に微笑みかけると、ついと視線を逸らし
てしまう。セブルスは昔から写真写りがよくない。ドラコが持っ
て帰ってきたスリザリン寮全員の記念写真でも、本来のセブル
スとは似ても似つかない人物に写っていて驚いたものだ。
これは私が知っているセブルスの姿と、公でのセブルスの姿が
違うということなのかもしれないが。
「おや、これは。私が撮影したのではないか?よく覚えていな
いが」
私が次の一枚に目を留めると、セブルスが覗き込んできた。
ウィルクスとナルシッサの間でセブルスが首を振っている。
おそらく撮影者の私に笑えと指示されたらしく、口元が奇妙
に引き攣っている。本当にセブルスは不器用な子だった。将来、
優れた閉心術士になるとはとても思えない感じだ。セブルスの
左右のナルシッサとウィルクスは自然な笑顔を浮かべてい
た。礼儀正しくいかにも監督生という雰囲気だ。
「奇怪な面子だな、今になってみると」
私の言葉にセブルスは片眉をつり上げて見せた。
「全員がスリザリン寮生。全員が監督生になり、三人がデスイ
ーター、二人は夫婦。一人はスリザリン寮監」
そして、一人はもうこの世にいない。この写真を撮影した数年後
に死んだのだ。もちろん、この写真を撮影した時には想像すらし
ていなかった。

(2015.1.23)
 

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