L'Amant 22

 自分がホグワーツを卒業する日が近づくにつれ、私は後に残る
セブルスのことを考えて、いろいろと根回しをし始めた。今ひとつ
頼りにならない寮監のスラグホーンにセブルスの才能をさりげな
く指摘し、私の卒業後はセブルスは同じ学年の者達と同室に戻る
ので、今後もセブルスの背後にはマルフォイがついていることを
寮の談話室でわかりやすく仄めかしておいた。マルシベールは
出来れば遠ざけておきたいがそうもいかないので仕方ないし、グ
リフィンドールのシリウスやポッターは退学処分に追い込んでやり
たかったが残念ながら無理なので、減点に勤しんだ。残念といえ
ば、せっかくセブルスが私と親しくなり始めたところだというのに
別離しなければいけないことだった。考えてみれば、私はマルフ
ォイの一人息子として育ったからか、他人と同じ部屋で寝起きす
るのが苦痛で、高学年になってからは空いていた部屋で一人で
暮らしていた。そこへセブルスを引き取ったわけだが、まさか一年
近くも一緒に生活することになるとは思わなかった。部屋に連れ
てきた当初のセブルスは屋敷しもべ妖精に酷似している風体で、
私もどうなることかと案じたものだが、今では魔法界、殊にスリザ
リン生としての習慣を私から学びそつない振る舞いができるように
なってきた。二人で部屋で紅茶を飲みながら議論している時など、
年齢差を感じないほど面白い。セブルスは出自に瑕があるが、
才能ある魔法使いに相違なく、本人は自覚していないが独特
の魅力がある。才能を発揮できるようになれば、自然と周囲と
交流できるようになるに違いない。
「セブルス、おいで」
 私が呼ぶと、セブルスはいつものようにおずおずと寝台に入って
きた。寝台の緞帳を引いてから、杖の先を光らせるとぼんやりと
周囲の様子が見える。明るくしすぎては興醒めになる。私はシー
ツの上に座り、セブルスは向かいに座る。口づけると、セブルス
は舌を唇から出してくる。そうするように私が教えた。舌を絡ま
せあったり、私がセブルスの口腔に舌を侵入させて中を舐めて
蹂躙する。セブルスが口づけで酸欠になりかけている間に、
パジャマのボタンを外していき、淡い色の胸の突起を指で弄った。
ゆっくりと時間をかけて愛撫して、まだ幼さの残る身体を少しず
つ開かせていく。着ているものを全て脱がせて裸にするとセブル
スはいつでも身震いする。寒くはないはずだが。私も裸になって
セブルスを抱き締めて温もりを分け与えて安心させてから、愛撫
を再開すると、徐々に喘ぎ声が上がり始めた。快感を隠さないよ
うにと私が教えたのだ。セブルスは尻の中に私の指を受け入れ
て愛撫され、快感を得ることも覚えた。年齢的にまだ早かったが、
私の卒業が迫っているので仕方ない。私は自分勝手なことは自
覚していたが、セブルスへ執着していることは当時はよくわかって
いなかった。私は性行為は単なる楽しみであり、コミュニケーション
の一つに過ぎないと考えていた。それでも、私がセブルスと合体
したのは本当に卒業間近の頃だった。別れの記念として、セブル
スに私との関係がこれからも続くことの楔として、関係を持った。
指とは比較にならない私自身を体内に埋められたセブルスは
苦しげに呼吸してひたすら耐えていた。私も今まで経験した中
で最も狭くきつい湿った筒に締め付けられ、思わず呻き声を漏らし
たが、セブルスを傷つけないように気遣いながら、腰を揺らし始
めた。セブルスの内壁を擦りながら抜き、また中を押し広げなが
ら奥を突く。徐々にセブルスの声に艶が加わってきた。身体の
内部から快感を覚え始めたのだ。私がセブルスの中で果てるより
前にセブルスもシーツに射精した。私は雄としての征服欲が満
たされ、セブルスを優しく労わり、後始末をしてから、一緒に眠
った。疲労のあまり死んだように眠っているセブルスを腕に抱
きながら、私はとても満足していた。私達はこれから新しい関係
に踏み出すのだろうと思った。恋人というのはすこし変だが、私
はこれからもずっとセブルスを保護していくのだ。
 だから、朝起きて、セブルスの態度がまったく変化していなかっ
たのでひどく驚いた。それは照れているとか、恥ずかしがっていた
ということではない。確かにセブルスは照れてもいたし、恥ずかし
がってもいた。しかし、私とセブルスの距離感は性的関係を結ぼ
うとその前と少しも変化していなかった。私はセブルスの初めての
男になったことに満足を覚えていた自分が馬鹿みたいだと思った。
セブルスは私のことを尊敬し、憧れていたが、ただそれだけなのだ。
私にとってセブルスが特別な存在であるとはまったく考えていない
のだった。
 何処か虚ろな気持ちで卒業式を終え、スリザリン寮に戻るとセブル
スが部屋で待っていた。
「引越しを済ませました」
部屋からセブルスの寝台と机と椅子が消えている。一年の間に、
家具を移動させる術も覚えたのだなと感慨に耽りかけた私に、
「屋敷しもべ妖精に頼みました」
とセブルスは少し楽しそうに話した。私が教えるまでセブルスは屋
敷しもべ妖精を使役するということを知らなかった。
「この一年、ありがとうございました。いろいろ教えてくださりあり
がとうございました」
「おい、これからも私はセブルスと付き合っていくつもりだぞ。まだ
教えていないこともあるよ」
と揶揄うと、セブルスは頬を嬉しそうに緩めた。思わずセブルスの
頬に口づけている時、控えめなノックの音がした。セブルスから
身体を離し、
「誰だ」と声をかけると、「ウィルクスです」と返事があった。一体何
の用だと思って扉を開けると、ウィルクスとナルシッサ・ブラックが
立っていたので面食らった。ウィルクスとナルシッサは同じ学年
の監督生同士だ。ウィルクスは私がセブルスに不適切な行為をして
いるかもしれない疑念を持っていたし、ナルシッサは私との縁談が
持ち上がっている間柄だ。両者が私とセブルスに関心を寄せてい
ての訪問なのだろう。ウィルクスは監督生らしく私の卒業を祝う挨拶
をし、ナルシッサもそれに倣って私に挨拶した。ナルシッサとは将来
結婚するかもしれない間柄ではあるが、今のところ縁談は進んでい
ない。私達は特に親しくはないが、険悪だったことはなく特別な感
情は抱いていない。
「セブルスのことをよろしく頼む」
私の言葉にセブルスは変な顔をした。子ども扱いされるのが嫌いな
のだ。
「もちろんです。でも、セブルスは今度は上手くやっていけますよ」
ウィルクスは快活に請合った。ウィルクスの提案で、皆で写真を撮
ることになった。ウィルクスは写真機を持ってきていたのだ。セブ
ルスは魔法界の写真機に興味津々だったが、いざ被写体になると
全然駄目なことが判明した。
「記念になるのだから笑っておけ」と言っても、引き攣った表情で
硬直し、ウィルクスを困らせていた。何度練習しても駄目なので、
それも記念になるだろうと諦めて、セブルスと私、ウィルクスとナル
シッサとセブルスで写真を撮った。よく考えてみると、私が主役
の筈なのにセブルスを上手く撮ることに全員の意識が集中して
しまっていたのだ。ウィルクスは現像できたら私とセブルスに写真
を送ると約束した。ウィルクスとナルシッサが立ち去った後、私は
ローブを脱いでセブルスに羽織らせた。身長差がかなりあるので
セブルスはローブを地面に引き摺り、飛行練習中に地上に墜落
した蝙蝠の子のように見えた。
「別れの記念にあげよう。縮ませる呪文をかけなさい」
セブルスは困った表情になった。施しを受けたのだと思ったのだ
ろう。確かにその意味合いはある。
「こんなローブごときをもらったくらいでそんな顔になるな。これか
ら、私からどんどん物を贈られることになるんだぞ」
「どうしてですか?」
「私がお前を気に入っているからだ、セブルス。お前は私に合わせ
ろ」
私は威張ってそう言い放った。セブルスはますます困ったような表
情を深めたが、私が急にぶかぶかのローブを引き摺っているセブ
ルスを宙に浮かせ、「本当に蝙蝠みたいだな」と揶揄うと怒って
魔法を解いて地面に降りようともがいた。空中でじたばたしている
セブルスを見ているうちに笑いがこみ上げてくる。くっくっと笑いな
がら魔法を解くと、セブルスはすとんと地面に落ちた。
「こういうことにも慣れねばな」と言うと、「嫌です」という返事が
即効で返ってきた。
「それではもっと魔法に長けるようになれ」
私が尊大に言いつけると、
「当然です!」ときっぱりした返事があった。
 私のやり方ではセブルスを手に入れることはできなかった。しかし、
まだこれからいくらでも時間はあるではないか。私がセブルスに抱
いている感情が恋なのか、そうでないのか自分でもよくわからない
が、セブルスを手放すつもりはないことは確かだ。

(2015.4.4)
 

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