L'Amant 19

 机に張り付くような姿勢で明日の授業の予習に勤しんでいる
セブルスに、「そろそろ風呂に行くか」と声をかけた。消灯時間が
近いので、各寮の監督生たちは見回りに忙しいだろうから、監督
生専用の浴場には誰もいないので、本来入浴する資格のない
セブルスを連れて行くのに好都合だ。私は面倒なので見回りなど
したことがない。しかし、スリザリン寮生は危機管理意識が高い
ので下手な振る舞いはしないと信用している。セブルスは手早く
机の上を片づけて、下着の替えを用意した。信じられないことだ
が、入学当時のセブルスには毎日下着を替えるという習慣がな
かった。入浴前に脱いだ下着を、入浴後にまた身につけようと
するので驚かされたものだ。私が着替えを見張っていて厳しく
注意したので今は毎日下着を替えるようになり、ハウスエルフは
セブルスの粗末な下着も丹念に洗濯し、綺麗に折り畳んで毎日
部屋に届けている。私としては下着ぐらい新品を与えたいのだ
が、わざわざプレゼントするのも妙なのでハウスエルフが下着の
穴を見つけてきちんと繕っておくことを日々願っている次第だ。
 監督生専用の浴場のシャンデリアの蝋燭のやわらかい光の
下で、私はローブを脱いで裸になると、傍らのセブルスを見やっ
た。相変わらず骨が透けて見える細さだが、皮膚は白く滑らか
だ。足もほっそりとしているが、すらりと長いので身長が伸びる
と思われる。そう予測するとセブルスは嬉しそうな表情をした。
早く背が高くなりたいらしい。時々、一緒にいるのを見かける
グリフィンドールの幼なじみの美少女と同じくらいか、低いくら
いなので男子としては確かに小柄な方なのだろうが、男は一
気に成長するものだ。
 監督生専用の浴場に通い始めた頃は、大人しく私好みにブレ
ンドした湯に浸かっていたセブルスだが、百本の金の蛇口と
取っ手に嵌め込まれた全て色の違う宝石に興味を示さない
はずがなかった。熱心に蛇口を観察していたので、蛇口を捻
ってみるように言うと、すぐに端から蛇口を捻って調べだした。
色とりどり、様々な泡の形にセブルスは驚き、手で掬って鼻
に持っていき香りを確かめたりして、しばらく夢中になっていた
ものだ。今では好奇心も落ち着き、手慣れた様子で私好みの
湯が出る蛇口を捻って白大理石の浴槽に湯を入れるようにな
っている。偶にセブルスの好きにしろと言うと、真剣な表情で
蛇口を捻り、浴槽の湯と泡の色を見ながら、調整する様子が
面白くて仕方ない。
湯で体が温まったところで、セブルスを浴槽の縁に腰掛けさせ
て、一日の汚れで油っぽい艶が出ている黒髪に湯をかけてよく
濡らすとセブルスは目を瞑ってしまった。まだシャンプーをつけ
ていないので目に沁みたりしないのだが、セブルスは洗髪が
苦手なのだ。というより、恐ろしいことに洗髪の習慣もなかった
らしいのだ。髪におざなりに湯をかけて風呂から出ようとするの
で、私が洗ってやることにしたのだが、耳の中や裏も綺麗に
洗えているか、爪がインクで汚れていないか点検するのが
習慣になってしまった。セブルスも徐々に私の、純血標準の
衛生観念が身に付きつつあるが、私がホグワーツにいる間は
セブルスの世話をしてやろうと思っている。面白いからだ。
ホグワーツに入学する以前、セブルスがどのような環境で暮
らしていたのか想像すらできないが、マグルというのは酷い
生活をしているらしい。
セブルスの髪を洗っていると、水嫌いの猫を無理矢理洗っている
ような気がしてきていつも可笑しくなってしまう。目を閉じて洗髪
に耐えているセブルスの顔は気の強さが表れている黒い瞳が
瞼で隠されているので普段と違う印象になる。
少し広めの額と高い鉤鼻は知性的だが、美的とはいえない。
神経質そうに顰められた眉も然り。睫は意外にみっしりと長く、
唇は薄いが形は良い。顎は華奢で鋭く尖っている。美しいと
はいえないばかりか、難が目立つ顔立ちなのだが、とても魅力
のある顔に思えるから不思議だ。
「さぁ、きれいになったぞ。もう一度湯に浸かって体を温めろ」
セブルスはぺこりと頭を下げると、浴槽に戻った。私も続いて
湯に浸かりなおす。ふと悪戯心をおこして湯の中に潜ると底に
横たわった。そのまま暫く息を止めて寝ていると、いきなりセブ
ルスの手か足、あるいは両方に身体を蹴られたので何事かと
湯の中から起きあがると、セブルスが動揺した表情で私を見て
いた。
「溺れたのかと思いました!」
そんなわけがあるかと私は失笑しかけたが、セブルスが真剣な
表情をしているので、
「試しに湯に潜ってみただけだ。私の年の者がする遊びでは
ないな」そう言いながら、セブルスに近づき、宥めるように濡れ
ている小さな頭を撫でた。そのまま身体を密着させて泡の中で
セブルスの胸の二つの飾りをいじったり、滑らかな背を撫でる
とセブルスは頬を赤らめた。泡で見えない事で指の動きがより
感じられるようだ。私が小さな双丘を軽く掴み、谷を指でなぞる
と、はっと我に返ったように身体を捩った。
「汚いです」と逃げようとするセブルスを片手で捕まえて、
「ちゃんと洗ったのだろう?」と言いながら蕾を探りあてる。固く
閉じられている窄みに指をあて、襞を一本ずつ数えるように撫
でていくと、セブルスは痩せた身体を緊張させた。ここでその先
まで進むつもりはなかったが、
「この中の、ずっと奥に男がもっとも感じる場所があるのだよ」
と教えた。返事は期待していなかったのだが、セブルスが私に、
「何故ですか?」と質問してきたので驚いた。セブルスの疑問
は排泄器官の奥に何故官能ポイントがあるのかということだろ
う。前立腺を裏から刺激することで快感を得るのだが、考えて
みれば最初に発見した先人は偉大だ。
「天の配剤だろう」
私の答えにセブルスは納得しなかったようだが、黙っていた。
何となくセブルスに口付けようと顔を近づけた時、扉をノックす
る音がした。
「失礼。ミスター・マルフォイ?」
湯に煙る先にスリザリンの監督生のウィルクスが立っていた。

(2014.10.31) 

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