L'Amant 18

 私の懸念は的中した。マルシベールはセブルスに何かと接近
してくるようになった。ふと気づけば、寮の談話室の隅のソファで
二人で話し込んでいたりする。部屋に二人でいるときにそれと
なくセブルスにマルシベールと何を話し合っているのか探りを入
れてみると、セブルスは最初のうち呪文について教えてくれるの
だと話していた。セブルスの常になく何か隠そうとしているような
表情にひっかかるものを感じたので詳しく訊ねてみると、マルシ
ベールは闇の魔法をセブルスに教えていることが判明した。
「闇の魔法は知っておいた方がいいものもあるのは確かだ。しか
し、一年生にはまだ早いぞ。闇の魔法はパワフルなだけに危険
も大きい」
私が柄にもなく尋常な注意をすると、セブルスは項垂れた。
しかし、セブルスは子ども扱いされることが嫌いなので、内心で
は納得していないことは明白だった。セブルスの才気は、多くの
才能のある魔法使い同様に危険な魔術に引き寄せられる傾向
があることに私は既に気づいていた。不満を潜めた俯いている
小さな顔が拗ねているようで可愛いかったので、尖った顎を指で
持ち上げて上向かせてみた。切れ長な黒い眸が私を見つめる。
黒い眸は私の不興をかったのではないかという心配と反発が綯
い交ぜになって揺れていた。私は、セブルスが私という魔法使い
に憧れていると当然のことながら知っていたが、それと匹敵する
我の強さを持ち合わせているところも気に入っている。そういう人
間でなければ、面白くない。
顔を屈めて、セブルスに口づけた。薄い唇を塞いでゆっくりと吸う
とセブルスは私のローブを掴んできた。空いていた方の腕で痩せ
て細い腰を引き寄せると、セブルスの口腔に舌を侵入させて、粘
膜を嬲った。セブルスは口づけの合間に息を継ぐことがまだ下手
くそだったが、口腔の粘膜を愛撫される快感は覚え始めている。
一年生のセブルスに闇の魔法を教えるマルシベールは困った奴
だが、実際は私の方が悪質かもしれない。つかの間、セブルス
の唇に呼吸を許すと、酸素を求めて薄い唇は喘いだ。セブルス
の小さな身体を腕に抱いたまま、ソファに移動する。私の膝にセ
ブルスを座らせてから、口づけを再開する。私に身体を預けきっ
てセブルスは私に唇を吸われ、舌を絡ませられると素直に応じ
た。しばらく口づけてから、顔を離した。頬を上気させ、荒い呼吸
をしているセブルスに声をかけた。
「そろそろ夕食の時間だ。大広間に行こうか」
セブルスは頷くと身なりを整えたが、少し戸惑っている様子だ。
「続きは夕食の後でしよう。もっと気持ちよくしてやる」
そう囁くと艶のある黒髪を乱すようにして撫でてから、骨ばった
肩を抱き、扉へ誘う。廊下に出る際、素早く私の背後の定位置
に下がったセブルスを伴って歩いていると、談話室にいた他の
スリザリン生たちも自然と私たちの後ろに並んで歩きだした。
結束の堅いスリザリン寮では特に珍しいことではない。どこか
らともなくマルシベールも現れ、セブルスの隣に来て話しかけ
る声が聞こえてきた。セブルスは言葉少なに答えている。他の
寮生がいる中で、そして私のすぐ後ろで物騒な話をしたくない
という分別がセブルスにはあることが好ましい。同時に常に一
匹狼的な行動を好むマルシベールがセブルスに強い関心を持っ
ているらしいことも気になった。マルシベールは、セブルスが自
分と似た性質を持ち合わせていると感じているに違いない。 
そして、私がセブルスに教えている内容を察しているのだろう。
セブルスは自分達だけの秘密だと思っているが、こういう事は
隠しておけるものではない。

(2014.10.1)

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