L'Amant 15

 セブルスが淹れてくれたミルクティを飲みながら、ふと、ミルクの
用意がある時と切れている時があることに気づいた。以前にも感
じたことだが、セブルス以外の人間が買ってきたものであるような
気がした。セブルスは絶対に必要な品物なら常備しておく性格だ。
普段は珈琲を飲むことが多いと話していたが、苦味が好みという
ことでミルクなしで飲んでいるようだ。メイドは雇っていないと言っ
ていた。家の大きさからしてハウスエルフは必要ないにしても、
家事をする者がいないのは不便ではないだろうか。
「独り身ですから気楽にやってますよ。友人と食事したり」
 私の問いにセブルスが意外なことを言ったので驚いた。セブルス
に友人!
「外に食べに出かけたりするのか」
セブルスは一瞬の間の後、「たまには。家で作って食べたりもし
ますね」
私は家で作って食べているのだろうと直感した。その相手が食材
をこの家に持ち込んでいるに違いない。セブルスは魔法薬の腕前
からして料理ができないわけではないと思うが、生活感が欠落
しているところがあるから、あまり興味がなさそうだ。私がそん
なことを考えていると、コツコツと窓硝子を突つく音がした。セブル
スはソファから立ち上がると窓辺に歩いていき、軋んだ音をたて
て汚れている窓を開けた。すぐに純白の梟が部屋に飛び込んで
くる。梟はセブルスの手のひらに手紙をぽとりと落とすと、ソファの
背に留まってすぐに神経質に毛繕いを始めた。私もこの家を最初
に訪問した日に近くを歩いたのだが、かなり空気が汚れていると
感じたので、梟も大気汚染で翼が汚れたような気がしているに相
違ない。セブルスは口元に皮肉な笑みを浮かべて手紙を読んで
いたが、部屋を出ていき、水の入った器と乾肉を手に持って戻っ
てきた。それをソファテーブルに置いたので、梟はばさっと羽ばた
いてテーブルに着地すると、水を飲んだ。梟の鋭い爪を持つ蛇の
鱗のような模様の太い足の傍に私たちのティーカップがあった
が、セブルスはそういうことには昔から無頓着だ。水を飲み終わ
った梟にセブルスが乾肉を手づから与えると、梟は当然のように
肉を嘴で掴んで飲み込んだ。どうやら、配達後のいつもの流れで
あるようだ。セブルスが届いた手紙に短く書き込んでから、また
封をした。
「もう少し休んでいったらどうだ?返事を急ぐ内容ではないから」
セブルスが純白の梟に声をかけると、梟は少し迷った様子だった
が、結局、手紙を嘴にくわえた。セブルスは夜の闇に飛び去った
梟を見送ってから、またぎしりと耳障りな音を立てて窓を閉め、
カーテンを閉じた。
「まったく、夜中にわざわざ梟を飛ばす用事でもないのに。相変
わらず困った子だ」
セブルスがそう呟いて嘆息したので、
「教え子か?」と、尋ねるとセブルスは苦笑しながら肯いた。もし
かして、手紙の主がこの家に出入りして、セブルスと食事を共に
している人間なのだろうか。それにしても、あの純白の梟には
見覚えがある。純白というのが珍しいし、本来英国にはいない
種だ。白という色は実は目立つので配達役としては実用的では
ないが、美しくはある。例えば、魔法使いの英雄の使いとして
相応しい梟だ。

(2014.6.2)  

ルッシーの勘は当たってますが、もう一人いるんだよ☆

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