L'Amant 14

 同じ部屋でセブルスと生活するようになってからまだ数ヶ月に過ぎ
ないが、この風変わりな一年生を庇護することは楽しく、卒業するの
が惜しく思える気がするほどだ。実際に留年したら、両親が大騒ぎす
るに決まっているし、もしかすると裏で手を回して強制的に卒業で
きるように取り計らいかねない。というよりは確実にそうするに決ま
っている。父は普段は温厚な人だが、融通がきかないところがある
のだ。私の縁組みについても、相手はナルシッサ・ブラックが最も
有力だが、その姉がマグル生まれと駆け落ちしたことを憂慮してい
る。といって、ブラック家以上の家柄は望めないから悩ましいらし
い。ブラック本家はシリウスとレギュラスの男兄弟しかいないし、
彼らが結婚して女子が生まれるのを待っていては、私が年を取り
すぎてしまうだろう。マルフォイ家の嫡子として生まれたからには、
その責任は勿論果たすつもりではあるけれど、自分で探すのは
やはり面倒なので、父に結婚のことは一任している。ナルシッサ
が私のことをどう思っているのかは知らないが、結婚相手候補だ
という認識はあるようだ。私と同室のセブルスとたまに話をして
いるらしいからだ。セブルスによると廊下や梟小屋などで顔を合
わせると、声をかけられるということだ。クッキーやタルトをもらって
くることもある。ナルシッサの手製ではなく、家から送ってきたもの
だというところがブラック家の令嬢らしいところだ。今日もセブルス
と茶を飲もうとすると、セブルスがナルシッサからもらったクッキー
を出してきた。
「ミス・ブラックがおやつにしなさいと下さいました」
「また、ナルシッサと会ったのか」クッキーを摘みながら尋ねる
と、
「はい。図書室の帰りにミスター・ウィルクスと一緒になったんで
す」
セブルスはずれた答えを返してきた。どうやら焼き菓子に関して
は我家のハウスエルフの方が上手だ思いながら、
「この間、シリウスとポッターから減点した監督生だな?」と
確認すると、セブルスはそうですと真面目な表情をして頷いた。
何故、ウィルクスの名が出てきたのかわからず訝しかったが、
すぐに謎は解けた。
「二人で歩いていたら、ミス・ブラックが通りかかられて一緒に寮
まで帰ってきたんです。お二人から監督生の役目をいろいろ教
えてもらったんです」
セブルスは黒い眸を輝かせて話した。将来に希望を馳せている
眸だ。早く優秀な魔法使いだと認められたくて仕方ないのだ。
「私も監督生だぞ」
と指摘すると、セブルスは明らかに狼狽した様子になった。ほん
の冗談だが、セブルスはどう答えていいものやらわからないのだ
ろう。こういう生真面目なところが可愛いらしくて仕方ない。
落ち着きなくげっ歯類のように両手でクッキーを齧っているセブルス
に、
「何でも訊いてくれて構わないぞ」
と言ってにやりと笑ってみせると、セブルスは困惑した表情でこく
りと頷いた。

(2014.4.30)
  

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