L'Amant 12

 授業を終えて寮の自室に戻ると、部屋は空だった。同居人は一年生
にして毎日図書室に通いつめているので、今日も図書室で本を閲覧し
ているか、自習室で借りた本を山積みにして読み耽っているに違いな
い。おそらく私は本の借り方を知らないまま卒業することになると思う
が、別に不自由はしていない。
 扉が独りでに開くと、宙に浮かんだ十冊以上の積み重なった本と、
左手に開いた本、右手に杖を持ったセブルスが入ってきた。私が物を
浮かせて移動させる方法を教えたのだが、自動で頁を繰る方法は独
学でマスターしたようだ。私が冗談のつもりでセブルスを抱きとめる
と、左手の本は床に落ち、机上に静かに着地するところだった積み重
なった本は音を立てて崩れた。
「おかえり。本を読みながら歩くと危ないぞ」
床に落ちた本を浮上させて手に取り、セブルスに渡すと、すみません、
という返事があった。読書に夢中で、現実が疎かになっていたらしい。
「グリフィンドールの馬鹿どもが狙ってくるともかぎらない。気をつけ
なさい」私がそう言って注意すると、セブルスは神経質そうに眉を顰
めて、まさに先程ジェームズ・ポッターとシリウスに因縁を付けられた
ところだと吐き捨てた。
「僕が魔法を見せびらかしてるって!」
ポッターとシリウスは本の山を浮かして移動していたセブルスに体当
たりしてきたらしい。あいつらは純血ということになっているが、マグ
ル以下だと苦々しく思っていると、
「でも、ミスター・ウィルクスが通りかかって、ポッターとブラックを減
点してくださったんです」
とセブルスが嬉しそうに話した。
「ウィルクス?スリザリンの?」と確認した。確かナルシッサと同学年
で、ともに監督生をしていたはずだ。優秀だが万事地味な男だった
ので印象が薄かった。混血らしいと小耳に挟んだことがあったので、
意識的に目立たないようにしていたのかもしれない。スリザリンに
おいて血統はもっとも重視されるからだ。
「そうです。僕、梟小屋で前に一緒になったことがあって少しだけ
お話したことがあったんです」
「それは初耳だな」
私の言葉に刺を感じたらしくセブルスは戸惑った表情を浮かべたが、
私が何となくセブルスの髪を耳にかけるとされるがままになってい
る。セブルスは耳を隠している方が似合うようなので元に戻したの
だが、やはり私に弄られるままになっていた。
「ウィルクスはシリウスたちから何点減点した?」
と尋ねると、「一人5点ずつで10点」
「ふむ。まぁ、そんなところだろうな。私なら一人10点ずつでマクゴ
ナガルの教官室送りにしてやるが」
と言うと、セブルスはくすりと笑った。12歳になったばかりにしては
大人びた笑みだ。
「ミスター・ウィルクスは寮まで僕の本を半分持って送って下さった
んです」
「どうせなら部屋まで持ってこればいいだろうに」
「ミスター・ウィルクスは用の途中で僕を送ってくれたんです。それ
ですぐに引き返していかれました。寮の中に入ったら、浮遊術を
使っていいって」
確かに私の目が行き届いている寮内でセブルスに悪戯を仕掛ける
者はいないだろう。
「あっ、僕が浮遊術をルシウスから教わったって言ったら、ミスター・
ウィルクスは驚いてましたよ」
「何故?」ウィルクスは、私が浮遊術できないと思っているのだろうか。
「目下の者の世話を焼く人に見えなかったって」
全く失礼な話だ。私がセブルスを特別に可愛がっていることはスリ
ザリン寮生には知れ渡っていると思っていた。
「僕がルシウスに期待されてるんじゃないかって」
そう話すセブルスが嬉しそうだったのが意外だった。私の親愛はセブ
ルスにあまり通じていないのだろうか。
「期待してるとも」
と揶揄うと、セブルスは失言したと思ったのか、気まずそうに顔を赤ら
めた。面白くなって、またセブルスの髪をかきあげると、耳も赤くなって
いる。何となく耳朶に口づけると、セブルスは吃驚して小さな声を上げ
た。
「気持ちいいか?」と尋ねても返事はなかったが、セブルスの顔は正
直に快感を表していた。反対の耳に息を吹きかけるとセブルスは身体
を震わせたが、拒否することは思いつかないらしい。そのままセブル
スの肩を抱き寄せてソファに座り、唇でセブルスの顔や髪を愛撫した。
セブルスは緊張していたが、やがて私の体温に落ち着いて、もたれか
かってきた。セブルスの吐息に合わせて、時々、舌で舐めても嫌がら
なかった。顔から首筋にかけて丹念に唇を這わせながら、手を股間に
あてて可愛い膨らみを抑えると、セブルスは私にしがみついてきた。
夕食の時間までにセブルスを解放してやらなければいけないが、今夜
はもうすこし先までセブルスに教えてみようと思う。本当にセブルスは
面白い。いろいろ教えていると楽しくて仕方ない。

(2014.1.30)
  

inserted by FC2 system