L'Amant 11

  ホグワーツに入学してきた頃のセブルスは魔法使いらしくあろうと
一生懸命努めていたのだと思う。マグルの世界で生まれ育ったことで
魔法使いに関して知識だけが先行していたことと、魔法使いとして
急速に成長しつつある本人の才能、ホグワーツという環境のすべてが
セブルスに影響を与えていたのだ。セブルスは私のような魔法使い
に生まれたかったと思っていたのかもしれないと今になって思う。
誰に後ろ指を指されることもない純血の家柄の魔法使い。それを持ち
合わせていないセブルスは歯を食いしばって、努力し続けていた。
当時の私はセブルスの必死さを本当の意味では理解していなかっ
た。私に懐いて、憧れている様子を見ても、自惚れが先に立ってい
たからだ。私がセブルスの気を惹こうとしてあれこれと画策していた
くせに。我ながら呆れてしまう。

「セブルス、こんなマグルの世界に住んでいて不自由じゃないか?」
以前にもしたことのある質問をすると、セブルスは口角を上げる
セブルス特有の表情を作り、首を横に振った。
「大抵家にいますし、かえって気楽なんですよ。研究に専念できま
すから」
「脱狼薬のか?」ホグワーツで教鞭を執ったこともある、不死鳥の
騎士団員の人狼の顔がぼんやりと頭に浮かんだ。
「ええ。他にも興味のあることはありますしね」
私が持参したワインに、セブルスが調合した香辛料を入れて温め
たマールワインを飲みながら、向かい合って話をしていると昔のこ
とを思い出す。セブルスは少年だったが、私もとても若かった。
「ドラコは元気ですか。こないだポッターから街で見かけたと聞き
ました」
「ハリー・ポッター?」
「ええ。あの有名なポッター」
「ここに来るのか?」
「ええ。たまにですけど」
あの魔法界の救世主の、顔立ちは平凡そのものだが、後から嵌
め込んだように鮮やかなグリーンアイが目に浮かんだ。あの眸は
母親からの唯一の遺産だ。折角の美しい眸は冴えない眼鏡に隠
れてしまっているが、母親はその美しい眸で周囲を魅了していた。
私は彼女がまだほんの少女だった頃の姿しか知らないが、輝く
ような美貌だった。セブルスは、あの少女ととても親しかった。
ハリー・ポッターの眸に、セブルスはあの美しい少女の面影を
見いだしているのだろうか。
「セブルスは不死鳥の騎士団にも所属していたから、今でもつき
合いがあるんだな。元死喰い人たちはそうもいかないが。死んだ
者も多いし、生きていてもお互いにかかわり合わない方が身の
ためだ」
「私たちは例外ですね」
そう言ってセブルスは微笑んだ。
「私たちは死喰い人になる前からのつき合いだからな。ここを初
めて訪ねた時には躊躇があったが」
「何故?」
「迷惑かもしれないと思った」
率直に答えると、セブルスは馬鹿なことをと呟いた。
「ホグワーツの学生時代、私のことを気にかけて親切にしてくれ
たのは貴方だけだった」
「他にもいただろう。マルシベールとか」
と言うと、セブルスは肩を竦めた。
「私は人に好かれるような子どもではありませんでしたから。貴
方に親切にしてもらえて本当に嬉しかった。あぁ、思い出した。
ミスター・ウィルクスに貴方のことをよく訊かれて、とってかわら
れるんじゃないかと心配していました。クリス・エヴェレットの時
は苛ついたのに。どうしてだろう?優秀な人だったからかな」
古い記憶の中から、優秀だが地味な印象のスリザリン生の姿が
蘇った。ウィルクスは私とセブルスの間の学年で、セブルスと同
じくスリザリンには珍しいマグル出身の男だった。印象が薄いの
は、出自を気にして目立たないようにしていたからだろう。あの男
が死喰い人になったと知った時、意外な感じがしたものだ。
「ウィルクスは、不死鳥の騎士団との争いでの死喰い人側の最初
の犠牲者の一人だった」
私がそう言うと、セブルスは静かに頷いた。

(2013.12.31)

inserted by FC2 system