鹿と小鳥 第34話

  セブルスは胸のところで手を組んで祈っていた。乳母が一緒の
時には、起きている間は事あるごとに祈っていたものだが、乳母が
倫敦のポッター邸にいる現在は大幅に回数が減らされている。
今夜はブラック兄弟とリーマスがジェームズとセブルスが滞在中の
ポッター家の田舎館にやってきたので久しぶりの再会を祝う宴が
村人も招かれて昼からずっと催されている。一時は危なかったら
しいシリウスも少し痩せてはいたがすっかり元気になっていたし、
こちらは本当に久しぶりに再会したレギュラスもいつも送ってくれ
る手紙のままに親切な態度でセブルスに話しかけてくれた。宮廷
一の美男子とされるシリウスとよく似ているレギュラスに容姿を
熱心に誉められてセブルスは困惑したが、ジェームズから貴公子
はレディを賛美する義務があるのでさりげなく受け流すのが礼儀
だと聞かせられていたのでなるべくその通りに振る舞うようにはし
た。貴公子の義務と言ってもシリウスから容姿を誉められたことは
一度もない。しかし、マントやガウンを見立てて贈ってくれたことは
あり、自分ではよくわからないがジェームズはとても似合っている
と言っていたし、シリウスが見立てたセブルスの衣装を気に入った
貴婦人からジェームズに問い合わせがきたらしい。セブルスにとっ
てシリウスはよくわからない人物で意地悪かと思えば、親切にして
くれることもある。今日も貴重な香辛料を土産にくれた。セブルス
が香り玉を作りたいと話していたことを覚えていてくれたのだ。セ
ブルスが宮廷でシリウスの看病をした礼なのかもしれないが、特
別に大したことはしていない。しかし、レギュラスもリーマスもセブ
ルスの処置を熱心に誉めてくれたのは内心嬉しかった。それから、
ジェームズが病気の予防にとシリウスに分けた薬草を薄めてだが
セブルスに飲ませていたと知ったリーマスが顔色を変えてジェー
ムズを叱ってくれたのが有り難かった。病人でもない者に薬を飲
ませてはいけないと日頃柔和なリーマスにしては厳しい口調だっ
た。あの薬草は汗をかかせる作用があるので熱冷ましに効くが、
セブルスは普段から体温がかなり低い体質だったからよかったよ
うなものの毒になっていた可能性もあるときっぱりと宣告したので、
何かと言い訳していたジェームズも項垂れた。これで病気以外の
時に薬を飲まされることはなくなるだろうと思うとセブルスはほっと
した。やはりお医者様は頼りになる。風呂にも入りすぎていると思
うのだが、それもリーマスに相談してみたら止めてくれるだろうか。
今夜は客人たちとの宴会が深夜まで続くので、子どものセブルス
は先に休むことになった。少し前まではジェームズと一緒でなけれ
ば絶対に寝台に入りたくなかったのだが、今夜は平気だった。階
下に皆がいるのがわかっているからだ。ジェームズが寝台の傍に
新しい長い蝋燭を置いていってくれたので、セブルスもしばらくは
起きていて何か書物を読むつもりだ。そのうちピーターもここにくる
という話だし、それまでに香り玉の作り方を調べてなおしておくこ
とにする。ピーターは優秀な助手なのだ。セブルスは卓の引き出
しからダンブルドアからもらった手紙を取り出すと、寝台によじ
のぼって布団に入った。ダンブルドアの特徴のある筆跡の手紙
は何度読んでも興味深い。カサカサと音をたてて小さな指が読ん
でいる箇所をなぞっていく。

 ダンブルドアは柔和な笑みを絶やさず、目の前に控えている
ピーターを澄んだ空色の眸で見つめている。ピーターは小太りの背
を丸めて絨毯の模様を意味もなく見ていた。
「シリウスとリーマスは仲がよいじゃろう?」
「はい、とても仲がおよろしいです」
 緊張していたピーターは一見当たり前の事を尋ねるダンブル
ドアを訝ったが、質問を率直に肯定して答えた。ダンブルドアは
いかにもと頷いてから何処か遠くを見つめるように、
「あの子たちがそなたくらいの頃、いや、もっと幼かったかもしれ
ぬな。ここで学んでいる時から大の親友同士だった。あぁ、ジェ
ームズと3人でとても仲良くしておったものじゃ」 
 その頃の話はピーターはシリウスからよく聞かされていた。
友達ができてどれほど面白かったか、と。リーマスからはその
頃の話を聞いたことはあまりないが、ジェームズとシリウスの
悪戯を止めるのが大変だったと苦笑しながら話してくれたこと
がある。シリウスは侯爵家の嫡男であるし、ジェームズも伯爵
家の嫡男だ。やはり名門の子息ということでダンブルドアの目に
留まることも多かったのだろうか。
「さて、夜にシリウスがリーマスの寝室を、リーマスがシリウスの
寝室を訪ねることはあるかな?」

(2013.3.31)

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