鹿と小鳥 第20話

朝の陽光の眩しさに目を細めながらシリウスは、ジェームズたちの後ろ
を歩いていた。薬草園では早朝から既に熱心に働いている者たちの姿
が目につく。シリウスは普段ならばまだベッドで夢を見ている時間なの
でしょっちゅう欠伸を噛み殺していた。ダンブルドア自ら案内をかってで
てセブルスとジェームズに薬草を一つ一つ説明しながら、リーマスに
必要な薬草を聞いて手ずから摘んでは小太りの少年が提げている大
きな籠に入れていく。ジェームズの腕の中のセブルスが興味をひかれ
た花にそっと触れるとダンブルドアは優しい声で

「それを乾かすと香り玉の材料になるよ、摘んでごらん」

と声をかけた。セブルスは遠慮なくぶちぶちと摘んだ花を小さな手で
握りしめた。ジェームズが良い香りがするねとセブルスに話しかける。
リーマスの当座の治療に間に合うだけの薬草を摘んでしまっても新鮮
な空気を楽しむように一行はそぞろ歩いた。シリウスは一番後ろから
ついて歩きながら、ダンブルドアとリーマスと小太りの少年、ジェーム
ズとセブルスの様子に信仰と家族でそれぞれ繋がっている輪が見え
るようだと思った。ここにくるのは気まずかったがリーマスとジェームズ
が行くところに自分がいないのも嫌だったからついてきた。

「…シリウスよ」

急にダンブルドアに話しかけられたので慌てて前に進み出ると、

「このピーターをリーマスの助手にしてもらえないかの。この子は修道
院で過ごすよりも世俗の方が向いておるように思えるのじゃ。明るくて
よく働く子だよ」

と小太りの少年の肩に両手を置いて、和やかな口調で頼まれた。

「それは別に構いませんが」

シリウスが小太りのピーターが期待と不安に強ばっている顔の先の
リーマスを見るとできればそうしたいというような表情をしていた。

「わかりました。ピーター、おまえにはリーマスの助手の仕事の他に
俺の使いもたまにしてもらおう。ジェームズのところに手紙を届けたり
する連絡係だ」

ピーターは大貴族のシリウスに雇われることになった幸運に大感激
した。小さな頃に父親を亡くしこの修道院の下っ端の修道士の仕事
の手伝いをしている。たまに訪ねてくる母親と話をするのが唯一の
楽しみだった。医者の仕事を覚えたり、ブラック家に仕えることにな
るなぞ想像もできない出世だ。早く母親に手紙で知らせたいと興奮
した声で話した。ダンブルドアがにこやかに頷いている。

「退屈なんじゃない?」

リーマスに声をかけられた。ダンブルドアの傍に控えて会話している
リーマスは本来いるべき場所に戻ったようによく馴染んでいた。少し
色の褪めた金髪が日の光をうけて輝いている。誠実で清潔なリーマ
ス。自分は都合の悪いことは神に告白しないことにしているが、リー
マスはどうなのだろう。あの夜の秘め事を懺悔しているのだろうか。

「いや、面白いよ。うちの屋敷にも薬草園を作ろうか。あったら便利だ
ろ」

リーマスは微笑みを浮かべた。欲しいのか欲しくないのかわからなか
ったが、そのまま二人で肩を並べて歩いた。昔もこんな風によく二人で
歩いた。大抵ジェームズが一緒だったが、時々二人でとりとめもないこ
とを話しながら歩いたものだ。リーマスの隣にいるととても落ち着く。
シリウスはいつも自分の執着心を都合よく穏やかな感情に置き換
えて誤魔化してきたが、それはとても長い年月をかけていっそう強く
なりつつあり、そのことにリーマスは少しも気づいていなかった。

(2012.1.17)
 

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