sweet≠bitter 2

 
 それからは時々、セブルスを訪ねては、僕が料理を作って二人で食
べ、その後で大抵セックスするようになった。意外なことにセブルスは
僕の作る料理を楽しみにしてくれているようで、作っているといつの間
にか後ろで見物している。凝ったものを作るわけではないのだけれど、
セブルスには面白いらしい。いつか有り合わせの牛乳に卵と砂糖を混
ぜた液にパンを浸しておいて、バターで焼いてフレンチトーストを作っ
たら、あのいつも冷静な黒い眸をまるくしてじっと見ていた。できあが
ったところどころ焦げ目のついた薄黄色のフレンチトーストをセブルスは
無言で完食した。それから、時々リクエストされるので何度も作ってい
るが、蜂蜜をかけたり、ジャムを忍ばせてみたりして工夫すると毎回セ
ブルスが目を瞠るのが楽しいのでバニラエッセンスを常備している。
 それと同時にセブルスとのセックスは回数を重ねる毎に深い快楽を
お互いに得られるようになっていった。おそらく二人とも馴染むのに時
間がかかるタイプなのだ。ある時、行為の後で並んで横たわって休憩
しているとセブルスが僕に質問してきた。
「おまえ、昔から男が相手なのか?学生の頃は女子にわりともててい
ただろう。誰にでも親切な優等生だったから」
僕はセブルスの首筋に顔を埋めて、薬草と甘い蜜が混ざったようなセ
ブルス特有の匂いを嗅いだ。あの頃はこんな近くでこの匂いを嗅げる
とは思いもしなかった。
「僕は体質的に鼻が利くだろう。だから、月経中の女の子の血の匂い
が苦手でね。襲ってしまいそうで怖かった」と答えたが、実はこの話を
それまで誰にもしたことがなかった。
「ずいぶん意気地なしの狼だな」とセブルスはひっそり笑ったが、僕の
背中を優しく擦ってくれた。
「きみは?」
「最初の相手が男だったからな。女性が嫌いだったわけではないが、
あまり縁がなかった」
 僕はそうなんだと軽く聞き流した。セブルスが幼馴染のリリーに、ハリ
ーの母親に憧憬を寄せていたことは知っていた。といっても、リリーの
ことは皆が憧れていたのだ。僕にとってもリリーは目映い存在だった。
少年時代のセブルスにとってリリーは太陽のような存在だったに違い
ない。あれほど美しくすべてを兼ね備えた女性を崇拝していたら、他
の女性には目が行かなくて当然だ。セブルスにとって女性は現実的な
存在ではないのかもしれないと思った。
 今日も昼食後に僕が淹れたコーヒーを飲んだ後、二人で寝室に行っ
た。昼間からカーテンを引いた薄暗い部屋でセブルスと性交する。お
互いに服の釦を外し合いながら服を脱ぎ裸になった。セブルスはいつ
でも頭と手の他は皮膚を人目に晒すことはなく禁欲的なことこの上ない
が、衣服を取り去った線の細い身体は白く、どこに触れても滑らかで
とても感じやすい。くっきり浮き出ている鎖骨の窪みを舐めるとセブル
スはくすぐったそうに上半身を捩らせたが、淡い薔薇色をした乳暈の中
心が固く凝っていた。指摘すると首を横に振ったので人差し指と親指で
右の乳嘴をぎゅっと摘んで懲らしめる。皮膚の敏感な部分を抓られて
セブルスは痛いと言って身体を撓らせたが、感じているのは痛みだけで
はない証拠に下腹部の茂みから花蕊が立ち上がり蜜を零していた。
それに熱を帯びた身体からいつもの清潔な薬草の匂いとともに甘い蜜
の香りがたち、僕の鼻腔を刺激していた。抓られて赤く色づいている乳
嘴を口に含んで強く吸い上げると、あぁっと胸の芯の快楽を外に逃がそ
うとするかのような声が漏れた。しばらく右の胸に吸いついて舌で舐っ
ていると、セブルスは左の胸に僕の頭を誘導しようと髪をまさぐりなが
ら、「…こっちも」と囁いた。
「そっちをどうするの?」とわざと尋ねると、「…吸って」とセブルスは
じれったそうに答える。放っておかれたのにすでに存在を主張してい
る左の桜色の突起に唇をあてて舌で舐め回してから、ちゅくちゅく音
を立てて吸いあげるとセブルスは頬を上気させて身悶えた。
「セブルスは胸を弄られるのが好きだね」と話しかけると潤んだ瞳に
睨まれたが、セブルスの花蕊はそそり立ち、蜜が涌き漏れている。
「最初は胸だけで達く?」と揶揄うと強情に首を横に振る。
「セブルスの胸に直接聞いてみよう」と指と唇で左右の乳暈を強く刺激
して限界を迎えている昂りをぎゅっと握ってやると、セブルスは悲鳴を
あげて達した。
「いっぱい出たね」と白濁でしとどに濡れた手を広げて快感の余韻に
震えるセブルスに見せてから、舌で舐めて喉を鳴らして嚥下した。
「濃くて美味しい」
セブルスは涙で潤んだ眸でぼんやりと僕を見つめた。
「気持ちよかった?」と囁くと、こくりと肯く。身体の内に快楽の靄がか
かって理性が霞んでいるのだ。
「もっと気持ちよくしてあげる」
 寝かせたセブルスの身体中を丹念に舐めていく。特に感じる箇所は
見逃さず、念入りに責めると、セブルスも素直に声をあげて応えた。
セブルスの本質は快楽にひどく弱い。浮き出た踝を舐め、足の指も一
本ずつ舐りしゃぶった。押し寄せる悦楽の波に溺れ喘ぐセブルスに与
えながら言い聞かせて、快感を言葉にさせ、次の愛撫を強請らせる。
セブルスに求めさせて、与える形で楔を打ち込み、内壁を擦りあげ、
ついに最奥に情を浴びせた。内を犯される悦びの声をあげたセブルス
の花蕊も再び放埒して果てた。後始末をした後、気を失ったセブルス
の黒髪を撫でていると、
「今日のおまえはなんだか意地が悪かった」とセブルスが不意に話し
かけてきた。眠っていると思っていたので、思わず髪を撫でる手が
止まった。
「ごめん。いやだった?」自覚していたので僕は率直に謝った。
「たまには悪くない」とセブルスは怒ってはいないようだった。僕がセブ
ルスの頬や耳を撫でるとくすぐったそうな表情になったが拒まれなかっ
たので、そのまま顔や髪を撫でていると、
「疲れた」と呟かれた。どこか甘えているような口調だ。
「疲れてるならミルクセーキでも作る?パンを浸したらフレンチトースト
もできるよ」と僕が起きあがりながら話しかけたら、セブルスは「何だと」
と吃驚して顔を上げた。
「おまえはハッフルパフに入るべきだったんじゃないか?」などと真顔で
言ってくるので可笑しかった。食べ物の話題になると、セブルスは子ども
みたいだ。いつも僕が料理するところを興味津々でじっと見ている。
「簡単なものしか作れないから無理だね」手早く下着とジーンズを身に
つけて、キッチンに行きかけたらセブルスに呼び止められた。
「ルーピン、おまえは良かったのか?私のことばかり訊いて、おまえは
自分のことを言わなかった」
 思わず、引き返してセブルスに口づけた。セブルスは不思議そうな表
情をしていたが、口づけに応えてくれた。
「すごく良かったよ」と囁くと、そうかとあっさり肯いたが少しほっとした様
子だった。セブルスの薄い肩の上まで毛布をかけ、額に口づけてか
ら部屋を出る。今のセブルスの言葉に自分はセブルスの特別な存在で
はないかと錯覚しかけた。危険な事だ。セブルスにとって僕は親しい友
人にすぎない。セックスする友人。奇妙だが、セブルスにとって、親しく
なれば性的な関係を持つのは普通のことなのだ。おそらく性的な体験
がとても早かったからだと思う。僕は学生時代からセブルスの特有の
匂いに惹かれてきたが、時々、そこに他人の性の匂いが混じることに早
くから気づいていた。十代の始めの頃からだ。その当時の僕はセブルス
の秘密を知っていることに罪悪感を抱き続けながら惹かれ、心の底で
セブルスの相手を妬んでいたが、この家でセブルスと抱き合うようにな
って、その感情を忘れていた。セブルスの一部分と関われるだけでも満
足だったからだ。ルシウス・マルフォイの、巧妙に調合された香水など
セブルスの匂いを直に味わえば、たちまち掻き消えた。しかし、今日、
ハリーの話が出た時、自分でも驚くほどの嫉妬心が湧き上がった。
セブルスとハリーは寝ている。直接尋ねれば、セブルスは隠さないかも
しれない。そもそもセブルスの性格からして罪悪感を持つなら寝ないの
だ。僕にとってハリーが大切な子であることに変わりはないが、セブル
スは誰にも渡したくない。セブルスが愛しい。生き方も、才能も、不器用
な性格もすべてが愛しい。そして、憎たらしい。僕が全てを独占できな
いことが苦しい。それでも、セブルスのいない人生は考えられない。
 冷蔵庫から卵と牛乳を取り出した。初めて料理をした時、ここはキッチ
ンではなく書庫と化していた。それが、僕が料理するようになると、だん
だん本が別の部屋に移されて、本来のキッチンに戻った。
僕が料理していると、いつもセブルスはいつの間にか後ろから見物して
いる。意外な稚気が可愛いくて仕方ない。揶揄すれば止めてしまうかも
しれないと思って知らないふりをしていた。僕はこれからも知らないふり
を続けるべきなのだろう。


(2013.5.21)

 ルーピン先生編です。最初、学生時代と同僚時代のエピソードも
書いてたんですが、長くなりすぎたのでばっさり省略しました。
ルーピン先生の収入源って、ダンブルドアが少額ながら年金を遺し
てくれたとか、日雇い的な仕事をしてるとかいろいろ考えてみたん
ですがよくわかりません。
そうそう、セブルス特有の匂いって、ワキガじゃないですYO(^^;)

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