Love Rain 後編

 隠し扉から階段を上りきったところにまた扉があった。家の主であるスネ
イプが先に立ってハリーを導いたが、スネイプの痩せて冷たい手をハリー
の厚みのある温かい手が強く握り締めていた。扉の先には短い廊下が続
き向かい合わせに二つの寝室があった。スネイプがその一つの扉を開け
て入り、ハリーが部屋に入ってから自分で扉を閉めた。窓の鎧戸は閉め
られていたが老朽化して大きく破れたところからまだ雨が降っているのが
わかる。部屋には寝台と小卓が置いてあったが、使われている形跡は
なかった。スネイプが片手で色褪せて古びたカーテンを引くと部屋はお互
いの姿が認められる程度のほの暗さになる。黴と埃の匂いが鼻腔をつい
たが、本当に二人きりだと思うとハリーには懐かしいものに感じられた。
長い間抑えていた欲望の熱が一気に皮膚の外まで溢れでてくるようで、
スネイプを抱き締めると口づけの雨を降らせながら、寝台に縺れ込んだ。
ハリーは眼鏡が邪魔になって外してから、シャツの釦を次々に外して露
わにされていく白い肌に夢中で赤い痕をつけていく。スネイプは傍若無
人なハリーの貪るような愛撫を荒い吐息をつきながら受け止めていた。
ハリーが制御できずに暴走する欲望の熱を抑えこんで、スネイプの身体
の奥を馴らそうともどかしい手つきで試みかけたが欲望の爆発が押し迫
ってくるのを感じて焦った。苦しげに呼吸するハリーの泣きそうな表情で
それと察したスネイプが器用にハリーの下着を脱がせて高ぶりを握った。
ほっそりとした手が固く張り詰めそそり立つ立つ象徴を握って擦りあげ
刺激を与えると、うっという呻きとともにスネイプの下腹部の茂みに白濁
をたっぷり吐き出した。解放感と粗相をした羞恥心に呆然としているハリ
ーの下で、スネイプがハリーの欲に塗れた手を自身の股に差し入れて
蕾に塗り込めた。

「もう少しすればまたできるだろう、お前くらいの年の男ならば。次はここ
を使え」

長い指を中に入れて自ら解す蠱惑的な姿にハリーの雄が再び力を持
ったが、震える指でスネイプの腹に自分が撒いた白濁を掬うと、細く長い
指が埋められている蕾にそっと触れた。スネイプの指を抜くと、僅かに綻
びかけているそこを時間をかけて馴らしていった。スネイプがもっと強く
しても大丈夫だと声をかけても慎重に指を動かし続けた。数本の指が飲
み込めるようになった頃にはスネイプの象徴も固く高ぶり、シーツを指で
掴みながらもどかしげに腰を揺らしていた。ハリーが指を抜いて、自身
を押し当てて少しずつ腰を進めていくとスネイプも身体の力を抜いて入
りやすい体勢をとる。想像以上に熱い粘膜のきつい締め付けにハリー
は痛みに似た歓喜にうち震えた。ハリーの腰の動きにあわせて、スネイ
プも細い腰を揺らした。スネイプの高ぶりがハリーの腹にあたると、スネ
イプの中に埋めたハリー自身がいっそう膨張してスネイプを喘がせた。

「あぁ、…んっ、あっ、あっ…」

噛みしめていた唇から淫らな声が上がり始めると、その艶やかさにいっ
そう情欲を煽られたハリーの動きが大きくなっていく。ひときわ強く腰を
穿った瞬間、悲鳴のような高い声をあげてスネイプの欲望が弾けてハリ
ーの腹を汚した。収縮する粘膜に絞られるように、低く呻いてハリーも
スネイプの中に再び欲望を放出した。思うままに黒い髪やしっとりと汗
ばんだ白い肌に口づける。

「ずっとこうしたかった」

愛しい身体に密着してその耳元に囁く声はどこか幼かった。

「ふん、そうか」

素っ気なく応じる声は喘いだために少し掠れていた。長い間使われてい
なかったらしいシーツは黴くさく、お互いの吐き出した欲望で汚れていた
が、離れ難い二つの身体は手足を絡ませあったまま眠りに落ちた。

「…あれ?…先生?」

ハリーがまだ眠い目を擦ると、スネイプは既に身支度を整えていた。既に
日が暮れているらしく、寝台の傍の小卓の上のランプスタンドの灯りが
点されていた。スネイプは情事の名残の疲れは微かに漂っていたが、黒
い眸はいつものように理性的な光を放っている。

「やっと起きたか。おまえもさっさとシャワーを浴びてこい。廊下の奥が
風呂だ。バスタブは壊れているので湯は貯められない。私は明日の
授業に支障をきたすので早くホグワーツに帰らねばならない」

「えー、今夜はここに泊まらないんですか!」

不満の声を上げたハリーに、

「泊まりたかったら一人で泊まれ。私は帰る」

とあっさりした返事が返ってくる。

「えー、先生、ひどい!」

初めてベッドを共にした余韻を微塵も感じさせないスネイプの態度に
ハリーは改めて抗議の声をあげた。

「子どもめ。一回寝たくらいで騒ぐな」

少なからずショックを受けているハリーに頓着せずに、

「お前はロンドンに住んでいるんだろう。今からマグルの交通機関を使う
よりここから姿現しすればどうだ」

と提案してきた。

「僕、姿現しって苦手なんですよ」

と不満げな声を出すハリーに、

「あぁ、お前は姿現し“も”下手だったな。姿現しの三原則を言ってみろ」

と突然質問が下された。

「もう、そんな教師みたいなこと言って…」

ハリーが不貞腐れると、

「私は教師だ。“どこへ”、“どうしても”、“どういう意図で”の三つだ!
お前に足りないのは最後の“どういう意図で”だ。目的があやふやだか
ら、いつまでも同じ場所でうろうろしているのだ!」

と決めつけられた。

「じゃあ、先生は今日姿現しした時、どう意図したんですか?」

「二人きりになれる場所だ!」

ときっぱり宣言してからスネイプはしまったという表情をしたが、後の祭
りだった。ハリーは明るいグリーンの眸をエメラルドのように輝かせると、

「僕も同じ気持ちでした」

と嬉しそうな笑顔になる。裸のままスネイプの傍までくると素早くキスをし
てから、シャワーを浴びに一旦部屋から出ていくとすぐに帰ってきた。
溌剌とした表情で服を着込むといつも以上に元気な様子だった。家を
出る前にハリーはスネイプを呼び止めると、ぎゅっと抱き締めた。

「次はいつ会えますか?早くまた会いたい…」

スネイプはハリーの増長を防ぐべく、冷たく突っぱねてやるつもり
だった。しかし、何故か口が勝手に、

「来週の週末ならば…」

と答えていた。

「それなら金曜の夜には会えますよね?」

ハリーの唯一の取り柄といっていい美しい緑色の眸が真剣な色を湛えて
スネイプの黒い眸に訴えかけてきた。土曜日なら完全に空いているが、
金曜日は半日授業がある。しかし、午後に雑用を片づけてしまえばホグ
ワーツを抜け出しても構わないだろう。スネイプは、頭の中で目まぐるし
く金曜日のスケジュールの算段をつけてから頷き、ぷいと顔を背けると
表に出た。雨は上がっていたが、まだ水の匂いが残っている。ハリーが
ホグワーツまで送りたいと言い出したが、スネイプはそれを断る代わりに
ふくろう便の返事を出すことを約束させられた。再会する金曜日まで
引きとめたそうに往生際悪く愚図愚図と話しかけるハリーをどう振り切る
か考えながらも、スネイプもハリーと一緒に廃墟と化した実家の玄関先
にいつまでも佇み続けていた。

(2012.4.30)

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