インタビュー

 魔法界で知らない人間はいないであろうハリー・ポッターへのロングイン
タビューに成功した。
嘗てあの名前を言ってはいけないあの人、ヴォルデモート、いやトム・リド
ルと対決し勝利した時、彼はわずか18歳の少年だった。
その後、ホグワーツに復学して卒業した後は、魔法省に闇払いとして入省
して早10年。その特殊任務を理由に、彼がマスメディアの前に姿を表す
ことはほとんど無きに等しかった。
本誌は、何度も企画書を彼に送り、粘り強く交渉し、ついに承諾を得ること
に成功した!
 今、目の前にいるハリー・ポッターは30歳を目前にした青年である。広く
知られているハリー・ポッターの特徴、くしゃくしゃと癖の強い黒髪に眼鏡、
あの稲妻型の傷跡も健在だ。そして、眼鏡ごしに緑色の瞳が、礼儀正しく
こちらを見つめている。先ほど、初対面の挨拶をした時、力強く記者の手を
握りかえしてくれた手は節くれ立って手の甲には擦り傷があった。毎日、箒
に乗って飛び回っているのだという。そういえば、彼はホグワーツに入学した
ばかりの一年生の時に、特別にクディッチチームに入ることを許可された
伝説のシーカーだった!伝説の人物を目の前にして、記者も興奮を隠せな
くなったが、そろそろインタビューを開始することにしよう。




Q.あのホグワーツでの闇の勢力との決戦の後、魔法省が発表した公式
メッセージ以後、あなたは一貫してマスメディアと距離をとっておられま
したね。

ハリー・ポッター(以下HP).まず僕の職業、闇払いには厳格な守秘義務が
あります。職務上、僕の姿は表に出ない方がいいのです。それとは別に僕
がメッセージを発信する必要がないと判断したということもあります。

Q.その魔法省が発表した公式メッセージについてですが、魔法省が用意し
た原稿に署名しただけだったのですか?それともご自分で考えられたもの
だったのでしょうか。

HP.自分で考えました。成人していたとはいえ、まだ学生でしたし拙い言葉
でしたが、自分でみなさんに戦いは終わったのだと、それぞれの日常に戻
って新しい生活を始める時がきたことを知らせたかったからです。

Q.あなたは決戦が終結するまで、闇の帝王を倒すことができる救世主と期
待される一方、狼少年呼ばわりされたり、または実は闇の帝王と繋がってい
るのではないかと疑われたりしてきました。そのことについてどう感じておら
れましたか?

HP.僕は三大魔法学校対抗試合が開催された時にヴォルデモードが復活
するところをこの目で目撃しました。その事実を魔法省が受け入れて迅速
に対応していたなら被害はもっと少なくて済んだ筈です。セドリックが殺害
されて既に犠牲者は出ていたのですから。しかし、皆、怖がってしまった。
魔法省による言論統制もあり、みんな事実から目を背けてしまいました。
その間に、闇の陣営は本当にかつての勢力を取り戻してしまったのです。
僕個人への中傷は今となっては何も気にしていませんが、その事が残念
でなりません。

Q.魔法省や一般の人々に対する不信感は、現在は持っておられないので
すか。

HP.ええ、もちろんです。魔法省はあの後新しく魔法大臣に就任したキン
グズリー・シャックルボルトのもと抜本的な改革が行われてきましたし、
僕もその一員です。ただ個人的に付き合う人はかなり限定されています
ね。ホグワーツの同級生や仕事仲間など気心が知れた人たちです。もと
もとあまり社交的な性格ではないし、平凡な人間なのでこのインタビュー
もそんなに面白いものにはならないんじゃないかな。

Q.ホグワーツ時代のご友人は、やはりグリフィンドールの?

HP.いいえ、グリフィンドールだけではありません。あの決戦時、ホグワーツ
では寮を越えて一致団結して闇の陣営を迎え討ったので、今でもみんな仲
間です。スリザリンは公式には参加していないことになっていますが、決戦
時の城内でホグワーツ側で戦っているスリザリン生を何人か見かけました。
彼らにはスリザリン流の矜持があるのでそのことを公表したりはしません
けどね。でも道で会えば会釈くらいはしますよ。

Q.あなたはあのメッセージでホグワーツの教員の潔白を保証されました。
その中にはセブルス・スネイプ教授も含まれていました。彼にはダンブルド
アを殺害したのではないかという重大な容疑がありました。

HP.ダンブルドアの死因は老衰です。ダンブルドアは自分の死によって、
ライトサイドが弱体化し、ダークサイドが勢いづくことを憂慮してその死を
できるだけ長く伏せておくように遺言しました。デスイーター達がホグワーツ
に侵入した時には既にダンブルドアは死亡していたのです。彼らが見た塔
から落下していくダンブルドアは実は死後数ヶ月経っていました。スネイプ
教授はダンブルドアの腹心だったのです。だからどう行動することがもっと
もダンブルドアの遺言に沿うか正確に理解していました。

Q.あなたはその事を知っていた?

HP.もちろんです。教授たちも知っていました。僕はスネイプ教授が汚れ役
を引き受けることに反対でした。ライトサイドが勝利をおさめることを確信し
ていましたが、スネイプ教授は常に万一の可能性まで考える人です。自分
が犠牲の捨て石になるつもりで、ヴォルデモードの腹心として新校長に就
任したのです。

Q.スネイプ教授に関しては現在でも様々な憶測がなされています。過去に
もスネイプ教授は同じような状況でアズカバン行きを逃れている。いつも彼
はグレーゾーンにいる。そうお考えになったことはありませんか。それから、
あなたは決戦後の取り調べで強行にスネイプ教授を弁護なさった。もちろん
他の教授たちも異口同音でしたが概ねあなたの弁護を後押しした。それで
彼は無罪ということになったのです。

HP.先ほどの答えと同じです。いつもスネイプ教授は損な役回りを引き受
けるのです。それが自分の義務だと判断してのことです。だからといって
彼を犠牲にしていい筈はありません。あの時、僕は彼が正しく評価されるこ
とを願って事実をお話したまでです。

Q.学生時代のあなたとスネイプ教授は激しく対立しておられたとききました
が。

HP.あはは、それは事実です。教授はとても厳しくて、僕はわりと自立心が
旺盛な方だったので。でも、僕が好んで使う武装解除させる呪文「エクスペ
リアームス」を最初におしえてくれたのは、スネイプ教授です。決闘クラブで
お手本を見せてくれて、その時僕は二年生でしたがこの呪文はとても僕を
助けてくれました。ヴォルデモートと対決した時にも使いました。もちろん
結果はご存じでしょう?

(2011.12.8)

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