夜明けの紅茶

 
 寂れた住宅街の一角にある廃屋同然の家の前に忽然と若い男が現
れた。魔法使いの仮装をしているのか黒のマント姿だ。フードを深く被
っているのでどのような顔をしているのかよく見えないが、冴えない丸
眼鏡をかけている。仮装するなら眼鏡はとっておくべきだ。マント姿の
男は、ペンキが剥げているばかりか朽ちかけている門扉を開け、勝手
に敷地に進入した。といっても、門にはインターフォンのような訪問者を
想定したたようなものはなかったので仕方ないことなのかもしれない。
若い男は雑草が生い茂っている狭い庭を突っ切ると、これも相当に傷
んでいる扉をノックした。ドンドンと容赦なく扉を叩いても一向に返事は
ない。常人なら人が住んでいないと判断するところだが、若い男は扉の
内側に人がいると確信している口調で声をかけた。
「ミスター・スネイプ、ご在宅ですよね。僕は魔法省から派遣されてきた
闇払いです。大戦前のあなたの行動について幾つかお訊ねしたいこと
があります。ご協力願います」
 鳥肌が立つような軋む音を出しながら扉が控え目に開かれると、
「何でもご質問になるがよろしかろう。どうぞ」と低く滑らかな声で返事
があった。
「玄関口で身の潔白を証明できるとでも?」
「勿論。私は魔法省でもホグワーツの校長室でも同じように答えてきた」
「あなたは魔法省というものを、あぁもう、いい加減中に入れてください
よ、スネイプ先生!」
「おまえこそ最初から名を名乗れ、ハリー・ポッター。つまらん芝居を
させおって」
 扉が独りでに大きく開くと不機嫌そうな表情でこの家の主が杖を持っ
て立っていた。ホグワーツで教師をしていた頃とほとんど変わらない
様子だが、就寝前なのか寝間着にガウンを羽織り、スリッパを履いて
いる。スネイプ教授は明るく片手を振るハリー・ポッターを黙殺すると
踵を返した。ハリー・ポッターは扉の前で軽く礼をしてから、スネイプ教
授の背を追いかけて室内に入った。スポーツマンらしい大幅で歩くの
ですぐに教授に追いついて、後ろ手に教授の手を取った。教授が仕方
なさそうに振り返って立ち止まると、ハリーは恭しく手のひらに口づけ
た。
「何だ、一体」
「久しぶりですから」丸眼鏡の奥で明るいエメラルドグリーンの眸が人
懐こく輝いている。
「別に来てもらいたくなぞないがな」スネイプ教授の言葉は冷淡だった
が、嫌悪の情は籠もっていなかった。
「何か飲むか?酒がいいか、それとも紅茶か」
「両方」図々しい奴だと呆れるスネイプ教授をハリーは平気でやり過
ごし、勝手知ったる様子でキッチンに向かった。スネイプ教授は溜め
息をついたが、杖を振って、消えかけていた暖炉の火に薪を足して燃
やし、炎を大きくした。天井の明かりがついていても薄暗かった室内
にあたたかさが戻ってきた。
 ハリーがキッチンからとってきたエルフワインで乾杯して、ホグワーツ
を辞めてこのスピナーズエンドの生家で気ままに薬学の研究生活を送
っているスネイプ教授の近況や、ハリーの魔法省勤めの苦労話をして
いたが、しばらくするとスネイプ教授がハリーの顔を見る前から予想し
ていた通り、ハリーはガールフレンドに振られてしまったと愚痴を零し
た。
「どうして女の子って、僕に愛想を尽かすのかなぁ」
「つきあったらわかるのだろう。おまえのいい加減さが」
「えー、僕、浮気なんかしませんよ。そりゃ、仕事が忙しくてなかなか
連絡できないことはあるけど。仕方ないじゃないですか、闇払いなん
だから!」
 酔いで赤くなった頬を膨らませて反論するハリーに、スネイプ教授は
そういう横着なところに相手は冷めてしまったのではないかと鋭く指摘
した。しかし、唇は何処か楽しそうな形をしている。
「あいかわらず、先生は酷いなぁ」
「そういう人間とわかっていて訪ねてくるお前もお前だと思うが」
「だって、魔法界の英雄って結構不自由なんですよ。外でやけ酒飲ん
でたら人目引くし。ロンはハーマイオニーと婚約してから自分の話ばっ
かりするんでちょっと面倒だし」
 不満そうに唇を尖らせるのでますます子どもじみてきたハリーの話
にスネイプ教授は適当に相槌をうちながらエルフワインで喉を潤して
いた。子どもの失恋話など酒の肴にもならないが仕方ない。ハリー・
ポッターを護る役目からはとうに解放されたというのに我ながら損な性
分だがお守りが身体に染み着いてしまっているらしい。スネイプ教授
が自虐的にそんなことを考えていると、いつの間にかハリーが傍に寄
ってきて首筋に顔を埋めてきた。濡れた唇が甘えたようにスネイプ教
授の白い首を軽く音を立てて吸う。顎や頬にハリーの癖毛がちくちく
あたってうるさいが、敏感な部分をはまれているうちに吐息が漏れた。
そのままソファに押し倒そうとするハリーにスネイプ教授は、
「するなら寝室へ連れて行け。ここだと後で移動するのが面倒だ」と
指図する。既にエメラルドグリーンの眸は欲情を滲ませているので、
すぐに止められなくなるのだ。ハリーはどこか安堵したようにスネイプ
教授を抱き上げると居間を出て、階段を上りだした。ハリーはこれか
らスネイプ教授と過ごす時間を思うと身体が熱くなったが、腕はしっか
りと教授を抱えている。本人の威圧的な存在感に反してスネイプ教授
の華奢な身体は枯れ葉のように軽い。
 迷いのない足取りで寝室に辿りつくと、ハリーはスネイプ教授を寝台
に横たえた。それからすぐに自分も靴を脱いで寝台にあがるとスネイプ
教授にのしかかった。ガウンを脱がせ、寝間着を肌蹴ると熱情のまま
に口づけていく。胸の突起の片方を口に含むとしばらく夢中で吸いな
がら、もう片方を指で摘んで弄る。左右の胸の突起から異なる刺激を
与えられると教授は堪えきれなくなって喘ぎだした。唇と指を交代して
たっぷり胸の飾りを色づかせて散々味わった後、唇と指はもっと下の
奥深いところを目指し始める。教授は白い身体を艶めかしくくねらせて
快感から逃れたいのか、味わいたいのか判別しがたい動きでハリーの
若い肉体を煽った。ハリーは細い腰に枕を敷いて普段人目に晒され
ることのない蕾を露わにした。指を唾液でよく濡らしてから蕾の窄ま
りのひだを数えるように撫でてから中心に中指を第一関節までぐっと
差した。教授は蕾を撫でられている時から挿入を意識して力を抜いて
いたが体内に異物が入れられて声を上げた。と、同時にハリーも声を
上げた。
「あ、ここやわらかい。最近使ったでしょ」
 足を開き、呼吸をあらげていた教授が、それがどうした、やめるかと
嘲笑う口調で質問すると、
「ここまできてやめないけど、誰なの?リーマス?ルシウス・マルフォ
イ?もしかしてドラコ?」そう言いながら中指を根本まで入れて湿った
粘膜をゆっくり擦りだした。
「ドラコの筈がないだろうが。お前じゃあるまいし」
 ハリーはふうん、それじゃリーマスかルシウスなんだねと呟いたが、
もちろん返事はない。指を増やして丹念にほぐし、教授の象徴が立
ち上がって蜜をこぼすようになると一度指を抜く。ハリーが手早く衣
服を脱ぎ捨て、教授の両膝を持ち上げ、既に堅くそそり立つ陽根
を教授の口の開きかけた蕾に宛ててそのまま腰を進める。充分に
準備されていたこともあるが、教授が楽に挿入できるように力を
抜いてくれたので挿入は容易だった。教授の肉襞はハリー自身
をきつく締めつけ、しっとりとあたたかく包んだ。繋がるといつもの
ように口づけをかわす。それはふたりが交合する時の無意識の約
束事のようなもので挿入の際に必ず行われる。ハリーが激しく腰を
うちつけると、教授もハリーの背中にしがみつくように抱きつき、
腰を振って応えた。ほとんど同時に絶頂を迎えた後も、若い身体は
すぐに復活して続きを強請った。ハリーは力の抜けた教授の白い
身体を、気の済むまで翻弄しつくし、何度も中に放出してからやっと
身体を離した。教授が意識を取り戻した時には身体の後始末はして
あり寝間着の上だけ着せられてあった。シーツも新しいものに換え
てある。
「あ、目が覚めた?意識とばしちゃったからちょっと吃驚した」
 スネイプ教授が緩慢に声の方を見ると、教授の寝間着のズボンを
はいたハリーがティーポットやカップの載った盆を下げて部屋に戻
ってきた。腰骨が見えているのに裾が短くて脛が出ているのが憎ら
しい。裸の上半身は細いが筋肉質で闇払いは肉体労働でもあることを
証明している。サイドテーブルに盆を置くと器用な手つきで紅茶を淹
れて、教授に手渡した。教授は気だるい動作で紅茶を啜った。熱く
て美味しい。ゆっくりと喉を潤す。声を上げすぎて喉が渇いていた
のだ。ハリーも自分の分を飲んでいた。二人で黙ったまま紅茶を飲
んでいるが、気まずさはない。やがて、静かな時間が終わり、ハリ
ーは明日休みだというので朝まで泊まっていくことになった。二人で
寝台に横になるとハリーは教授の身体に密着して、手を這わしてき
たが官能的な意図はなく、眠る前のおまじないのようなものなので
教授も好きにさせている。
「やっぱり先生が一番いい」
 ハリーの言葉に教授はそれはよかったなと極めて冷淡に応えた。
とても疲れていて眠たそうだった。
「ねぇ、他の人はやめて僕と付き合ってくださいよ。僕、年上の人な
らうまくいく気がする。身体の相性もいいし」
「馬鹿も休み休み言え。おまえは甘えて楽がしたいだけだ。振られる
たびに慰めてもらいにのこのこやってくる餓鬼と付き合ってられるか」
「後始末もしてあげたし、紅茶も淹れてあげたじゃないですか!」
「そんなものは偶に会うからだ。おまえが使った後のキッチンの惨状
ときたら…」ハリーの答えを待たずに、教授は目を閉じてしまった。
ハリーは肩のあたりまで伸ばされた黒い髪をそっと撫でたが反応は
なく、穏やかに呼吸するわずかな動きが感じられる。スネイプ教授
は寝間着の上だけ着ているので下着はつけていないと思うと、若い
男らしい好奇心から暗闇の中で手を這わして実体を確かめてみた。
小さな双丘をそっと揉んで、腿を撫でても教授は完全に寝入ってし
まったようで特に反応はなかった。ひとしきりしっとりとした感触を
楽しむとハリーも瞼が重くなってきたので眠ることにした。教授の
身体に触っているといつもとても安心する。恋人になってくれたら
絶対に大切にするのに、いつになったら本気になってくれるのか見
当もつかない。今夜、二人で飲んだエルフワインは仏蘭西製の高級
品だったので、おそらくルシウス・マルフォイが土産に持ってきたも
のだろう。スネイプ教授はかなりアルコールに強いが、銘柄などに
拘りはないのだ。先程の紅茶を用意する時にキッチンの棚や冷蔵
庫の中を覗いたら、珍しく食料品が入っていた。それもハムの缶詰
や卵、傷みかけたレタスやトマトなどスネイプ教授が購入しそうも
ないものばかりだった。リーマスは独身生活が長く、しかも経済上
の理由で自炊してきたので料理が上手だ。リーマスは月に一度、
脱狼薬を作ってもらいにこの家を訪問する。スネイプ教授は脱狼
薬の研究家として有名になりつつあり、リーマスは実験体でもあ
る。この家に泊まることもあるに違いない。ルシウス・マルフォイも
リーマスもスネイプ教授が学生時代からの腐れ縁だ。腐って切れ
てしまえとハリーは思うがそんな上手く事は運びそうにない。しか
し、まだ先は長い。既成事実を積み上げていくしかないだろう。そ
もそもハリーと教授が最初に関係を持ったきっかけは、何人か前
のガールフレンドに振られた後にスネイプ教授の家で愚痴を言い
ながら大酒を飲んだ勢いで、スネイプ教授を押し倒してしまったの
だ。教授はあまり性的な関係を重視しない性格なのか、ハリーを哀
れんでくれたのか、たいして抵抗することなくハリーに抱かれてくれ
た。それからはスネイプ教授に慰めてもらうために、ガールフレンド
に振られ続けているようなものだ。スネイプ教授の指摘通り、ハリー
はガールフレンドに対してかなりいい加減な態度で付き合っている。
一応、ハリー・ポッターの名声に惹かれて声をかけてくる人を選ぶ
ことにしていて、本気で好意を寄せてくれる人は丁重に断ることにし
ている。くよくよ考えていたら朝になってしまいそうだったので、ハリー
はスネイプ教授にしっかりと纏わりつくと目を閉じた。散々、愛しい
身体を貪った後で若い身体も疲れていたのですぐに眠りに落ちて
いった。

(2013.5.7)

 
某政治家o氏の口説き文句は「夜明けの紅茶を一緒に飲まないか」
だそうです(笑)YOUはピンキーとキラーズ(@恋の季節)か!
リーマス編とルシウス編もちょっと書きたい気がする。
このリーマスは結婚してない設定です。何かビッチスネは書きたい
けど、リーマスには不倫してほしくないんですよ。
ルシウスは、変態かつ愛妻家かつ子煩悩が成立するキャラなんで
すよね。私的に。
ちなみにこの話はメモにR18予定ハリスネという題で
・大戦後
・スピナーズエンド
・ハリー訪問
・寝る
・ハリーはGFにふられるとスネイプ先生の所にやってくる。
・ルシウスも先生と寝てる。ドラコは寝てない。
と書いてありました(^^;)

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