僕が愛する彼の性格

 
 夕食後に二人で暖炉の傍で過ごす時間が長くなる季節に
なった。暖炉で明るく燃える炎の守をしつつ、ペアのゴブレッ
トにホットワインを拵えてセブルスに声をかけると、読んでいた
日刊予言者新聞を几帳面に畳みながらセブルスが話しかけて
きた。

「あぁ、おまえと同じグリフィンドールの…。トライ・ウィザード・
トーナメントが開催された年の降誕祭のダンスパーティで、
確かおまえのダンスパートナーだった…」

 セブルス特有の詳細な説明に、 

「パーバティ・パチル?」

と、答えると、セブルスはそうだと軽く頷き、結婚したそうだと
続けた。新聞に結婚したと記事が載っていたらしい。

「へぇ、知らなかったな。グリフィンドールの同窓会で婚約した
とは聞いてたけど。」

 パーバティは学年一の美少女として有名で、とても明るい
性格をしていたので、結婚相手は引く手あまただったに違
いない。

「直接話したのではないのか」

「うん、同じ寮でも凄く仲がよかったわけではないから。
ダンスの相手が見つからなくて困って頼んだら引き受けて
くれたんだよ。双子だったからロンの相手も確保できて助
かった。僕たち、気が利かなくて失礼なことしちゃったんだ
けどね」

 僕が少々おどけて説明すると、セブルスは得意の口角を
歪めて皮肉そうな笑みを浮かべたが、嫌味をいうこともなく
僕が作ったホットワインの香りを嗅いでからゴブレットに口を
つけた。セブルスの顔の中で一番特徴的なのは鼻で僕も黒い
眸と甲乙つけがたいほどの魅力を感じている。セブルスは視
覚とともに嗅覚も鋭く、よく鼻先で匂いを確かめる。その仕草
が好きでいつも見惚れてしまう。禁欲的にしてセクシュアル
な仕草だ。それにしてもセブルスがパーバティ・パチルの結婚
など全く興味がないであろうことをわざわざ話題にしたので内
心驚かされた。いや、この様なことは、実は時々ある。
 昔、僕が何度かデートしたことがあるチョウ・チャンとマグル
のロンドンでばったり出くわしたことがあった。懐かしくてお互
いの近況を暫く立ち話してから別れたのだが、その話をセブル
スにすると、いかにも興味がなさそうな素っ気ない相槌で流さ
れたものだった。それで僕もそのまま忘れていたのだが、まる
まる三ヶ月は経ってから、急にセブルスがチョウ・チャンを話題
にした。マグルの男性と婚約したらしいと人伝に聞いたという
のだ。僕が驚くと、セブルスは知らなかったのかと眉をつり上
げて見せた。前に会ったときに、マグルの世界で働いていると
話していたし有りうる話だと思ったが、それをセブルスが知っ
ているというのが謎めいている。よく考えるまでもなく誰がスリ
ザリンのセブルスにわざわざレイブンクローのチャンの近況を
知らせるというのだ。自分で誰かに聞いてみたか、調べたとし
か思えなかった。その後、日刊予言者新聞にチャンの結婚の
記事が出ていたので事実と知れ、僕がそれを伝えたがセブル
スはつまらなそうにそうかと言っただけだった。
 そして、ジニーだ。ジニーは親友ロンの妹で、僕にとっても
妹のような存在だが、学生時代に付き合っていた時期があ
る。チャンよりは真剣なつき合いだったが、あの頃の僕は自
分の家族が欲しかったので、ウィーズリー家のアットホームな
雰囲気に憧れていたこともジニーと交際していた大きな理由
を占めていた。将来はジニーと結婚してウィーズリー家の一
員になりたいと思っていた。もちろん今でもジニーの事は家族
同然に大切に思っているし、セブルスにも話したことがある。
セブルスは僕の生い立ちからして自然な発想だと冷静に分析
していたし、嫉妬の片鱗も覗かせたことはない。しかし不思
議なことに、何故かセブルスはジニーが所属しているクィデ
ィッチのプロチーム・ホリヘッド・ハーピーズの情報に詳しい。
成績やチーム内のいざこざ、ジニーの立ち位置などに精通
していて、時々話題に出してくる。セブルス曰く、スラグホー
ンの元お気に入りがチームにいるので、スラグホーン経由で
情報が入ってくるということだ。その話が出ると大抵はスラグ
ホーンは女性の運動選手と懇意にしていることでフェミニス
トを気取っているに違いないというセブルスの愚痴で終わる。
僕が気になる点は、セブルスは興味がないことは完全に無
視する性格だという事と、セブルスはクディッチにまるで興味
がないということだ。
 今回のパーバティ・パチルの件も夕食後にわざわざ新聞を
読んでいたことが怪しい。セブルスは研究が立て込んでいる
時期以外、新聞は配達されると同時に隅々まで目を通す主義
なのだ。脱狼薬作りに忙しい満月期が過ぎた今の時期はそれ
ほど忙しくないはずだ。これは嫉妬されていると考えていいの
だろうか。といっても、僕が過去に少しでも関係した女性の
現在の状況をセブルスが把握しているだけの話で別に責めら
れたりはしていないし、二人の間に何の波風も立っていない。
しかし、今後も折に触れて、僕とデートしたことがある女の子
たちの近況が話題に出続けるという予感がある。嫉妬されて
いると思えば嬉しくないこともないのだが、それとは少し違
う気がしている。セブルスの場合は記憶力が抜群に優れてい
るので、おそらく過去が色褪せることがないのだ。学生時代、
僕はセブルスに非常に嫌われていた。九割方、父とシリウス
絡みの怨恨が原因だ。だから、その時代の僕の事は本来どう
でもいいはずなのだが、セブルスはダンブルドアの命で密かに
僕を守っていたので僕の学生生活の全てを把握してもいた。
一緒に生活する関係になって、その当時の記憶がセブルス
の中で色鮮やかに甦り、今となっては他人も同然のガール
フレンドたちの近況をわざわざ僕に伝えていると考えられる。
セブルスは知性的な人だが、反面もの凄く面倒くさい性格を
している。ちなみにハーマイオニーはセブルス的には僕の友人
枠にカテゴライズされているらしく、滅多なことでは話題に
は出ない。二人きりで旅をした事もある間柄なのにセブル
ス的にそれは問題ではないらしい。

「セブルスは僕がホグワーツに入学してからずっと見守って
いてくれたんだよね」

 なんとなく学生時代を思い出したので、改めて確認して
みたくなった。

「まあな。ダンブルドアに頼まれたから仕方ない」

「授業中はわかるけど、放課後も?」

 当時は嫌だったが、セブルスがずっと僕を見守ってくれ
ていたと思うと今となっては嬉しいものだ。

「ずっとだ」

 端的な答えに、は?と首を傾げると、やれやれとばかりに
セブルスは頭を振って黒髪を揺らした。

「おまえがホグワーツで過ごしていた間は、須らく私の保護下
にあった。しょっちゅう夜中に寮を抜け出す悪戯小僧のおかげ
で私は慢性的に寝不足だったものだ」

 それは保護下ではなく監視下ではないのか。あの頃、夜中に
寮を抜け出す度にセブルスに遭遇して鬱陶しかったものだが、
僕に何か探知魔法的なものが取り付けられていたということ
なのだろうか。恐る恐るセブルスに尋ねてみると、

「それは職務上の問題だから本人にも話すわけにはいかない。
しかし、私にはダンブルドアの協力と許可が与えられていた
ことは教えておこう」

と、いつものようにダンブルドアに信頼されていたことを
自慢されたが、不機嫌になっている場合ではない。僕に対
する24時間警護はダンブルドアの意向もあったのだろうが、
セブルスの完璧主義によるものだったのではないだろうか。

「私はお前が思っているよりも、お前のことを知っている。
いやか?」

 黒い瞳が徒っぽく僕を見た。一瞬のうちに、胸に沈みかけ
ていた錘が消え失せる。

「セブルスだったらなんでもいいよ。ホットワインのおかわり
作ろうか。今度はオレンジを入れてみる?」

 セブルスは苦笑いするとともに肩をすくめてから、今度
はブランデーかウィスキーにしろと要求してきた。セブルス
は香りに敏感だが甘いものより辛いもの、強い味が好きだ。
よく考えてみれば、僕もセブルスの周囲には常に目を光らせ
ている。元デスイーター仲間のルシウス・マルフォイから元
教え子のドラコ・マルフォイまで(何と親子だ)、セブルスに
寄ってくる輩には気を許さない。セブルスの場合は遠回り
かつ見当違いも甚だしいが、それもセブルスらしいといえ
る。ちょっとずれてはいるがお互い様というものかもしれない。
そんなことを考えながら、杖を降ってウィスキーの瓶を呼び
寄せた。僕は大変な人を好きになってしまったのかもしれな
いが、好きになってしまったのだから仕方ないことなのだ。

(2012.11.30)
inserted by FC2 system