露顕


 階段を下りてくる靴音が微かに聞こえたような気がした。かつては地下
牢だったこの部屋は四方の壁も天井も床も厚く堅固な石造りで、重い扉
も固く閉じられているのだから空耳かもしれない。しかし、ほどなく扉を
ノックする音が響いた。スネイプが開錠するとふわりと何かが部屋に入っ
てきた気配を感じてから扉を閉めて閉錠の呪文を唱えた。かちりと鍵が
かかる音がすると、衣擦れの音がして癖の強い黒髪をした若い男が現
れて、誠実なエメラルドの眸がスネイプを見つめた。
 口づけ合いながら、すぐに寝台にもつれ込む。身につけているものを
お互いに脱がしていく間も待てない唇に絶え間なく肌を貪られ、もどか
しげにまさぐられて身体の最奥がはしたなく疼いた。両足を開き、受け
入れる体勢をとると既にハリーの下肢が昂っているのがわかる。スネイ
プを見下ろす澄んだエメラルドの瞳には欲望が直情に浮かび、荒い息
を吐く口に指を入れ唾液で濡らすとスネイプの蕾の襞を撫でてから揉み
解しはじめた。羞恥と浅ましい期待に腰を揺らしながら、挿入を強請ると
堪えきれなくなっていたのかすぐに昂りを入り口に押し当てられ中にめり
込まれた。スネイプは狭い内壁を押し広げられていく圧迫感とそれを凌駕
する悦びに喘ぎながら耐えた。身体を捩らせながら最奥まで受け入ると
すぐに抜き差しが始まり、腰を打ちつけられるたびに声がでる。自分で
自分を抑制できなくなる。スネイプが果てるとハリーも低く呻き、スネ
イプの身体の奥を熱いもので濡らした。
 休んでいる時間が惜しくてスネイプが今度は身体をうつ伏せてハリー
を迎え入れようとしたが押し留められ、そのまま二回目の交情に入る。
ハリーの腰にスネイプのほっそりとした脚が絡み、ハリーの筋肉質な
背中にまわされた華奢な指が必死にしがみついた格好で揺さぶられ
る。スネイプは、固く太いもので身体の最奥の粘膜を擦りあげられる
快感に全身を支配され呼吸も覚束なくなった。いっそこのまま息絶えて
もいいとすら思える。今度はハリーが先に果てた後、スネイプも白濁を
吐いて二人の腹を汚した。繋がったままハリーの逞しい腕がスネイプ
を抱き起こした。ハリーの欲望がスネイプの尻から漏れ出てシーツを
濡らす。悪戯な指が太く固く昂っているハリー自身を咥えて開ききって
いたスネイプの蕾をぐるりと撫であげたので艶やかな悲鳴があがった
が、性器の方に這わされていた指が咄嗟に輪を作り根本を締めたので
射精せずに済んだ。ハリーの膝にスネイプが乗って貪るように口づけあ
う。ハリーに下から突き上げられスネイプが上半身を仰け反らせると、
ハリーは胸の突起に吸いついた。片方を吸いながら、片方も指で摘んで
捏ね上げる欲張りさを嗜めるように黒い癖毛に指を入れて掻き混ぜて
も、甘えた愛撫が止む気配はない。このままずっと抱き合っていたい
が、終わりはいつも訪れる。解放された後の疲労感とともに名残惜しく
お互いにもたれ合っていたが、やがて身を離した。別れはいつでも慌た
だしい。来た時と同じように身支度を整えたハリーは年上の男と濃密な
時間を過ごした後にも関わらず年相応に見えた。大人になりかけの少
年だ。

「それじゃまた来ます」

 もうここに来てはいけない。スネイプは、密会のたびに言わなければい
けないと思っている言葉を今夜も飲み込んで無言で見送った。この部屋
でしていることは許されることではないし、いつかは必ず終わることだ。
しかし、それは今夜ではない。それにはまだ耐えられない。



「ふぅ、あぁ…、あっ、あっ、あぁ」

 校長の寝室では、どこか苦悶にも似た喘ぎ声が響いていた。普段、
宗教家のように黒づくめの長衣に隠された白い魔法薬学教授の白い
裸体が寝台に蹲って痴態を晒していた。それを食い入るように見つめる
この部屋の主の眼には仄暗い情欲が滲んでいる。

「セブルスよ、早う産むのじゃ」

 白い双丘を覗き、蕾の開き具合を検分してそう急かす。今夜は長い
年月をかけて飼い慣らしてきた従順な肉体が汗ばみ悶える様を存分
に楽しもうと新しい趣向を取り入れてみたのだ。ちょっとした懲らしめ
の意味もある。いつものように白く滑らかな肌を唇で吸い、舌で嘗め、
皺だらけの手でまさぐって感触を楽しんだ。節くれ立った指は身体
の奥深くまで差し入れられ“異常”がないか調べた。これは、セブ
ルス・スネイプがダンブルドアの元に身を寄せた頃からずっと続い
ている“検査”だった。スネイプはダンブルドアに対していかなる秘密
を持つことも許されていない。検査が終わって、ほっと吐息をついた
瞬間、スネイプは呻いた。得体のしれない異物が身体の中に入れら
れたのだ。ダンブルドアは手も魔法も使わずに“それ”を出すように
スネイプに命じた。

「んっ、ああっ…」

 金色の球が開いた蕾から見えてから一度奥に引っ込んだ後、ぽと
りとシーツの上に落ちた。排出する瞬間、シーツを掴んだスネイプは
力つきて倒れ伏した。その一連の様子をじっくりと観察してからダン
ブルドアは優しげにスネイプを労った。

「まだ中が収縮しておるかの。ゆっくりでいいから息を整えなさい。
スニッチは窮屈な処に押し込められておったから嫌がって振動して
おったじゃろう。本来、空を飛び回っているものだからのう。あぁ、
羽は閉じてあるから怪我の心配はないよ。」

 そう言いながらも、異物を排出して緩んでいる蕾に節くれ立った指
を差し入れて調べた。さりげなく粘膜を擦り、その刺激に喘ぎ声をあ
げた淫猥な身体を窘めながら、細い腰や白い双丘を撫でまわした。

「これはあの子が取ったスニッチじゃよ。そうそう、あの子は口で取っ
たのじゃったな」

 ダンブルドアとスネイプの間であの子が誰を指すのか明白だった。
スネイプはびくりと身体を震わせると、ダンブルドアの方を向き直っ
た。

「…それは私に対する嫌がらせということでしょうか。あの生意気な
グリフィンドールの勝利の証で私を辱めたということですか」

黒い眸が鋭くダンブルドアを睨んだ。

「何を言うのじゃ、セブルス。この頃の君はたいそうあの子を可愛
がっとるではないのかな」

甚振られた身体の火照りはまだ収まっていなかったが、スネイプは
冷静な声で応じた。

「何のお話でしょうか」

ダンブルドアは穏やかに答えた。

「週末の罰則、夜中に君の部屋で二人きりで過ごしているではないか」

スネイプが反論する間もなく、ダンブルドアは朗らかに話を続けた。

「あの子は情熱的じゃな。夜中に寮を抜け出して恋人の部屋まで忍
んでいくとは。それから若者の性欲というもの旺盛さときたら!君も
大変じゃろう。一晩に何度も挑まれて。この間はずっと向かい合っ
たまま愛し合っておったが、恋愛と性欲を混同している様がよく現
れていたのう」

 半月の形をした眼鏡越しに明るいブルーの瞳が揶揄うように輝いて、
スネイプを見つめた。

「あなたは私の部屋にいたのですか?…何故!」

「わしはこの城の何処にでも姿現しができるし、透明マントを用いず
とも姿を消すことができる。君もよく知っておると思っておったがのう」

「人の部屋に無断で侵入することは礼儀に反していると思いますが、
アルバス」

「いかにも。しかしながら、わしは君がわしに対して秘密を持つことを
一切禁じてきた筈じゃ。そもそも、いかに姿が見えずとも普段の君
ならば自分のテリトリーに無断侵入する者を察知できたはず。警戒
することも忘れて待ち侘びておったのか、あの幼気な者の訪れを。
そなたはあの子を穢してしまった。あの無垢な身体に肉の悦びを
おしえてしまったのじゃろう、きみが」

 ダンブルドアの言葉の全てが、スネイプが罪を犯したことを明確に
指摘した。ダンブルドアは青褪めているスネイプを冷たい目で眺めて
いたが、ふと表情を緩めた。

「しかし、あの子もそういう年頃になっていたのじゃな。そう思えば、
セブルス、君があの子の相手でよかったのかもしれぬ。悲しむ者は
一人でも少ない方がよい。愛する者の死は若い者には辛すぎるじゃ
ろうから」

慈愛に満ちた表情のダンブルドアに、怪訝にスネイプが尋ねた。

「何を仰っているのですか?」

「あの子のあの傷にはヴォルデモートの魂が入っておる。通常、アバ
ダケダブラの呪文は痕跡を残さぬ。セブルス、君には例の予言を教
えたじゃろう。そう、君が盗み聞きした後の部分じゃ」

「どちらかしか生き残れない」

蒼白な顔でスネイプが呟いた。ダンブルドアは痛ましそうにスネイプ
を見つめながら話を続けた。

「そして彼らはそれぞれの魂を共有しあっておる。ということは、どちら
も死ななければならないということじゃ」

「そのようなことは…」

なおも否定しようとするスネイプに、ダンブルドアは宣告した。

「いや、ハリーが生きておる限りはヴォルデモートは滅びぬ。それでは
完全に終わることにはならぬ。まことに惨い話じゃが、あの子は死な
ねばならぬのじゃ」

すっかり冷え切っている裸の肩を暖めるように擦りながら、

「あの子に優しくしておやり。この淫乱な身体で若者の性の欲求の捌
け口になってやるがよい。セブルス、君も楽しんでよい。仕方あるまい
のう」

 寛大な態度で自分の持ち物の不貞を他ならぬ英雄のために容認した
ダンブルドアの老いて皺だらけの手が、再びスネイプの白い牝鹿のよう
な身体を玩びだした。猥雑な指使いに躾けられた通り従順に応じなが
らスネイプは考えた。ハリーがこの世界に生きていることが許されないと
いうのならば、自分の居場所もないということだ。こんな荒涼とした世界
に一人で生きていても仕方ないから。しかし、諦めるにはまだ早い。ハリ
ーが生きられるのなら、この世界に自分がいなくても別に構わない。

(2012.5.16)
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