密会

 
許されるなら、ずっと二人きりでいたい。


 床に置いたランプの灯りの傍に座っているセブルス・スネイプは自
分の膝の上で長閑に寝ている男を見下ろしていた。跳ね返っている
手の施しようのない癖毛と同じブラウンの眸は閉じられ、長い睫が頬
に影を落としている。殺るなら今だなと思いながらもセブルスはそっ
とジェームズの眼鏡を外した。セブルスが注意深く触れたにも関わら
ずジェームズは瞼を震わせて目覚めてしまった。手を口に当ててと
欠伸をしながらもジェームズはセブルスの膝に頭を乗せたまま、
「君の夢を見てたよ」
と、のんびりとした口調で話し出した。
「人の膝を痺れさせておいていい気なものだな」
 セブルスが文句を言うと、ジェームズはごめんごめんと笑いながら
起きあがってセブルスの隣に座ると一枚の毛布を二人の肩に被せ
る。身体を寄せあっているだけで暖かく、ランプの灯りでお互いの顔
が見えるだけで満ちたりる。お互いに苦労して寮を抜け出して会って
いるのだが二人きりで過ごすだけで満足だった。
「何故か僕はホグワーツに入学したばかりの一年生に戻っててさ、
教授になった君が僕のことを凄く嫌そうな顔で出迎えてた」
「何だそれは」
 突拍子もないことを言い出したジェームズにセブルスは呆れ声を
出した。
「君は恐ろしく厳格な先生でね、一年生の僕に質問攻撃しまくるんだ
よ」
 ジェームズはセブルスの声色を真似て話を続けた。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何
になるかわかるかね、ミスター・ポッター?」
「ペアゾール石は何からできているか、またはその効用を述べ給え」
「モンクスフードとウルフスベーンの違いは何か答えよ」
 イッチ年生の最初の授業でいきなりこれだよとジェームズがセブ
ルスに目配せするが、セブルスの知ったことではない。
「それはこの間の魔法薬学のテストのサービス問題だろう。教科書
を見てもいいなんてスラグホーンはどうかしてる。自説も書き加え
た私の答えより、教科書の要約を書いたにすぎないおまえの方が
点数が良いなんて今でも納得がいかない」
 不機嫌に眉をしかめたセブルスの頬にジャームズが軽く口づけた。
不快そうに顔を背けられたが、ジェームズはめげずにセブルスの
象牙色の横顔にそっと唇をあてていく。根負けしたセブルスの鼻に
自分の鼻をすりすりと擦りつけた。セブルスの方もジェームズの鼻
を擦り返してくれる。ジェームズがセブルスの唇を塞ぐとセブルス
も応えたのでしばらく二人で口づけ合った。漸く離れて息をついた
セブルスが、
「さっきの話だが、私は魔法薬学の教師になっていたのだな。どう
いう深層心理のあらわれなのだろう?」
訊いてきた。照れ隠しらしい。
「うーん、実際に向いてると思うけどね。ちょっとおかしいのはいつ
でも君が僕を見張ってるんだよ。夢の中でずっといたずらとかクデ
ィッチとか兎に角何してても絶対に振り向けば君が僕を怒った顔
してじっと見てるんだよ」
「そんな面倒なことを誰がするか!大体一年生はクディッチ選手に
なれないではないか。自意識過剰の自惚れ屋め」
 だって夢なんだから仕方ないじゃんとジェームズは言い放ちます
ますセブルスを呆れさせた。
「でも、いっつも君に見られてるってなかなかいいものだったな。そう
いえば、君、こないだの試合見てくれた?僕のナイスプレーでグリ
フィンドールの優勝が決まったやつ」
「ふん、スニッチを先に見つけたのはレギュラスだったのに、お前が
脇から横入りして掠め取ったのだろう」
 苦々しげに言い捨てたセブルスにジェームズはにやっと笑いか
けた。
「やっぱり見に来てくれてたんだ。客席に見あたらなかったらちょ
っとがっかりしてたんだけどね」
「後で人から聞いただけだ!お前のラフプレーとグリフィンドール
贔屓の判定はスリザリン寮で物議を醸していたのだ!」
 セブルスは憮然と言い捨てたが、目を合わせないところが怪しい。
客席ではなくても、どこかから試合を見ていたに違いなかった。
「今度、二人で空中散歩してみようか。僕の箒なら二人で乗れる
からさ」
 人目を忍んで会うしかないというのにそんなことができるわけが
ない。セブルスは笑いそうになったが、ジェームズにもそれはわ
かっているはずだと思うと胸が苦しくなった。
「離ればなれになんかなれないよ。やっと二人きりになれたのに」
 セブルスの動揺を敏感に察したジェームズがセブルスを強く抱きし
めた。セブルスも黙ってジェームズの背中に手を這わせる。
しかし、今も二人の間を隔てる壁はあり、だからこそ惹かれ合わずに
はいられないのではないのか。会えば争わずにはいられなったのと
同時に二人きりになりたくて仕方なかった。お互いがそっくり同じ
感情を抱く相手と出合ったのだ。同じ寮だったら友達になったのだ
ろうか。いつも一緒にいる仲間同士に。それなら、お互いにわから
なかったのかもしれない。これほど離れがたく、愛しい相手だと
気づかなかったに違いない。
「でも、いつかは…」
 終わりが来ると悲観的な未来を肯定する事で心の平安を保とう
とする傾向があるセブルスが言いかけた言葉はジェームズの口
づけで遮られた。
「今じゃないよ、それは。ずっと二人でいようよ」
 セブルスは反論しなかった。このまま時間が止まればいいのだ。
為す術もないことを願う自分の愚かさに驚きながら、セブルスは
ジェームズと同じ感情に今は溺れることにした。

(2013.3.27)

絶対に離れないと言いながら、他の人と結婚して子どもを作り、
挙句にさっさと死んでしまう男なんて困ったものですね…(^^;)
ジェームズ、お誕生日おめでとう♪

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