Love in the middle of the night


「もう動いていい?」

とお伺いをたててみたが、

「駄目だ」

とにべもない一言で却下された。自分の上に跨っている愛する人の
身体とは既に繋がっている。早く彼のあたたかく湿っている敏感な
粘膜で熱い昂ぶりを思う存分擦り上げたいが、先程から犬のように
待ての指示が出されたままだ。
向かい合っている男の、いつもひんやりと冷たい皮膚はしっとりと
汗ばみ、黒髪は乱れて顔にかかっているが直そうともしない。普段の
禁欲的な態度の奥深くに隠されている欲望が露わになっていた。
舌を絡ませ合う口づけの合間に、顔や耳の敏感な部分に薄い唇が
押し当てられ、若々しい筋肉を確かめるようにほっそりと長い指に
まさぐられる。胸の飾りを摘まれて、

「そこは駄目!」

と慌てたが、悪戯は止まない。くすぐったくて変な声がでると、悪戯を
している彼も擦れて朱に色づいた唇の両端を上げて微笑んだ。

「ひぃっ、あぁっ!今日は私の好きにすると…」

 隙を突いて起き上がり、ぐっと両腕で腰を引き寄せて白い胸の片方の
飾りに顔を埋めて吸いつくと、抗議の声があがった。突起を舌で舐りな
がら唇で吸いあげる。無体を仕掛けてきた僕の黒い頭を引き剥がそうと
ほっそりと長い指に癖っ毛をひっぱられたが、頭を離さず胸に吸いつい
たまま上目遣いに見上げると、羞恥に身を捩じらせて目を反らされた。
そのままんくんくと乳首を吸い続けられるうちに全身に悦楽が広がり
始めたらしく、艶のある喘ぎ声が漏れた。
ようやく唇を離すと、突起は赤く色づいて濡れていた。息を整える間も
なくもう片方の突起を口に含んで吸い上げた。白い臀部の谷間の若い
高ぶりをくわえている部分をぐるりと撫でると堪らない様子で腰が揺ら
めく。彼の昂りもそそり立ち、僕の鍛えられた腹筋にあたっている。本格
的に主導権を交代するチャンスだと下から突き上げた瞬間、

「痛っ!」

と悲鳴を上げたのは何故か攻め込んだ僕の方だった。両肩に彼の
両手の爪が10本全て鋭く食い込んでいる。もの凄く痛い。

「今日は私が好きにする番だと言っただろう!」

 荒い息を吐きながらも、眉をつり上げた怖い顔で叱りつけられた。
今度、邪魔をしたら顔に同じことをすると宣告され、大人しくしている
ように厳しく言いつけられた。肩に食い込んでいた爪が外されると、
そのまま手がおかれ再び腰を揺らし始める。強弱をつけながら、
時々ぎゅっと締め付けられた。そのたびに内部の高ぶりは固く膨らみ
を増していく。
自分が与えている快感で刻々と近づいてくる射精の瞬間への期待で
情欲に濡れているであろう僕の顔をみて、満足そうに微笑む表情は
憎らしくも美しかった。目と目を合わせた瞬間、絞り上げるように締め
付けられて、焦らされ溜まった欲望を彼の中に放出し、僕の腹も彼の
白濁で汚された。


「ちょっと痩せたね。僕がいないとちゃんと食事をとってないんじゃ
ないの」

 行為の後、そう言いながら白い身体に浮き出た鎖骨や肋骨を撫でると、

「別に」

と素っ気ない返事が返ってきた。図星だったようだ。珈琲ばかり飲んで
仕事に没頭していたに違いない。このところ忙しくてずっと家を空けて
いた。一度、あと少しで仕事の片が付きそうだったが、どうしても我慢
できなくて張り込みの途中で家に舞い戻って慌ただしく身体を合わ
せた。上司を誤魔化すのが大変だったが、ある意味命懸けの職場
なので、大切な人との時間はいつでも優先されてしかるべきだろう。
あの後、突入して失敗したら二度と会えないこともあり得た。実際、
予想外に捕獲に手こずって家に帰れたのは三日後だった。
その後、疲労のあまり二日間も意識不明で熟睡してしまい、やっと
今夜、熱望していた続きをすることができたのだ。彼は、まだ疲れて
いるだろうから、今夜は自分がすべて取り仕切ろうと言い出した。
気遣っているように見せかけて、自分が主導権を握りたがっているのが
バレバレだったが、知らぬ顔をしておいた。年上の彼のそういうところが
可愛くて仕方ない。こんな関係になってから何年経っても、彼を求める
気持ちは色褪せることはないのだ。

「ねぇ、もう一回する?」

と訊ねると、

「馬鹿」

と切り捨てられた。

「じゃあ、お風呂に入ろうよ。その後で、何か食べたい」

 勝手にしろと言われるかと思ったが、彼は呆れたように溜息をついて
みせただけだった。こういう時は、年の差をお互いに利用している。
彼は甘えられて仕方なくというふりをし、僕は年下らしい傍若無人さで
彼の手をとるのだ。



注)afternoon後にスネが作ったと思われるスープはとっくになくなって
います。たぶん、ハリーが何か用意すると思います。
追記…DIARYのSSにその後のちょっとした話「真夜中、キッチンで」を
    UPしました。(2011.9.23)

(2011.9.21)
 

 
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