薄暗い地下の部屋で耳に聴こえるのは互いの息遣いと口付け合う音だ
けだ。疲れ知らずの若々しい肉体の熱に身体の奥から溶かされた後でも
すぐには離れがたく、口腔に潜り込んできたあたたかい舌に自分の舌を
絡めて応えた。痩せてはいるが筋肉質で逞しい腕の中でスネイプは濃密
な情事の名残を惜しんでいた。ハリーに他の人間と関係している事を知ら
れたのでもうここを訪ねてくることはないと思っていた。
ハリー・ポッターは有名人だ。女の子に不自由はしていない。関係を持っ
た当初、付き合っている女の子のことでよくハリーを揶揄したものだ。何
故、ハリーがスネイプのもとを訪ねる事を止めなかったのか知らない。見
られた次の週の約束の時間にハリーはいつものようにやってきて、スネイ
プと寝た。思春期の若者の旺盛な性欲がハリーの理性を乱しているのだ
ろうか。
 もう止めなければいけないと頭ではわかっている。このような関係は
お互いにとって危険極まりない。感情の乱れはその人間の弱点になり得
るからだ。特にハリーを取り巻く状況は近頃とみに緊迫したものになって
いた。その事を最もよく理解しているはずなのにスネイプはこの地下室で
過ごす時間を絶つ決断をできずにいる。
近頃のハリーは以前のような好奇心を剥き出しにした抱き方をしなくなっ
た。スネイプの身体の隅々まで丹念に愛撫し尽くした後に自身を挿入して
繋がる。与え、与えられる快楽に溺れることに後ろめたさを覚えながらも、
ハリーを拒否することができなくなっていた。

「痛ッ」

ハリーに不意に指を強く噛まれた。痛みに耐えているとやっと少年は指
から顔を離した。今度は赤く滲んだ血を少年は舐めては優しく吸う。

「ごめんね、先生」

謝りながらもやっと血が止まった傷を少年は愛しげに見つめる。もう寮に
帰さないといけない時間だった。別れ際の口づけは微かに血の味がした。
 ハリーが帰った後で愛撫の痕跡はすべて消した。これからダンブルドア
からの指令でヴォルデモートのもとに赴かなければならない。無事に戻
れたら今度はダンブルドアのところに報告に行く。どちらも碌な目に遭わ
ないとわかっているが、それがスネイプの仕事だった。


 ダンブルドアに指示されたとおり衣服をすべて床に落としてスネイプは
裸になった。それから寝台の上に仰向けになる。皺だらけの節くれ立っ
た指が、生贄のように横たわる滑らかな皮膚の上を丹念に這いまわっ
た。胸の突起や臍のあたりは特に念入りに弄られる。いつもダンブルド
アは隅々までたっぷりと時間をかけてセブルスの身体を調べる。いかに
感じやすいのか、肉の喜びに貪欲なのか、指で弄り、舌を這わせ、唇で
吸いあげてスネイプの反応を一つ一つ指摘していく。可哀想なセブルス、
とよくダンブルドアは言う。これほど淫乱な身体を持っていては堕落する
ほかあるまい。性的な欲望に汚されてしまった哀れなセブルス。

「さ、今度は後ろを調べよう。今回は暗黒卿のところに長く留まる仕事だ
ったのだから念入りにしなければならぬ」

スネイプは無言で体を捻って俯せた。節くれ立った指が一本蕾の奥まで
ずぶりと埋められた。スネイプが呻くと、少し我慢しなさいと宥められた。
きつく締め付ける粘膜を擦りあげて何度も指が抜き差しされる。

「これ、セブルス、もうちょっとゆるめんとわしの指が食いちぎられそうじゃ。
さ、息を吐きなさい」

ふうっと息を吐いて下肢の力を抜いたスネイプの奥から老人の指がずる
りと出ていきかける。ほっとした瞬間二本の指がぐっと奥まで一気に入
れられた。反射的にスネイプが悲鳴を上げた。

「やっぱり太いのが好きか。何本のめるかな」

 無遠慮に窄まりを広げられる。今夜のダンブルドアはスネイプが指に
犯されただけで達する様を視姦したいらしく、唇での愛撫を控えていた。
節くれ立った冷たい指で淫らな身体に欲情の火をつけて白い肌が汗ば
み色づいていくのを見守った。年老いた身には、他者の熾り火に冷えた
手を翳し温めるのが一番心地よい。熱が足りなければ火掻き棒で掻き
混ぜてやればよい。素手を入れれば当然だが火傷することになる。
長く偉大な魔法使いとして人々の尊敬を集めてきたダンブルドアはその
晩年近くに手にした性の欲求の捌け口をじっと眺めた。あたたかい粘膜
を抜き差しする指は滑らかに行き来できるようになっている。時々、指先
を曲げて粘膜の秘密の突起を押すと面白いほど簡単に嬌声とともに白い
尻が揺れて、昂っている性器がのぞく。肉の喜びに弱い身体に支配する
楽しみと同時に軽蔑を覚えさせられる。スネイプに対する嗜虐に近い感
情をダンブルドアは自覚している。しかし、二人の関係の秘密が保たれ
る限り、このお気に入りの玩具を手放すことはない。誰も知らないのなら
それは何もないのと同じ事だ。力を込めて指で犯している身体の最奥を
ぐっと何度か突き上げると、四つに這った体位でスネイプは白濁をシーツ
にまき散らして達した。ダンブルドアは憐れみと嫌悪に自らの欲情を隠し
て、腰を上げたままの体勢で顔をシーツに埋めたスネイプを見つめた。

 ふとダンブルドアはスネイプの黒衣に半ば隠れている手に目を留めた。
再び黒衣を身に纏ったスネイプは厳格な魔法薬学教授に戻っている。
注意深く顔を見れば目の下に疲労の濃い陰を認めることができるが、
黒い眸は知性の光を取り戻していた。

「指を怪我しておるぞ、セブルス。先ほどどこかにぶつけたのかの。
見せてごらん、治してあげよう」

老人はほんの小さな傷も見逃さずに細やかな気遣いの言葉をかけなが
ら、痩せた手をとる。

「自分でできます。少し前にできた傷ですが、大したことがないのでその
ままにしておいたのです。お見苦しいものをおみせしました」

そう言うと黒衣の裾ですっと指を隠そうとしたが、節くれ立った指は白い
手を掴んで呪文を唱えた。一瞬で傷が消えたほっそりとした手の甲に老
人の乾いた唇が押し当てられる。

「ありがとうございます」

淡々と礼を言うスネイプの手から顔を上げるとダンブルドアは、

「また来週には報告にくるように」

と上司の顔で告げた。スネイプが承知しましたと返事をするとようやく
手を離して退室を許す。スネイプは礼をしてから扉に向かうと階段を下
りて廊下に出た。蝙蝠のように靡くローブの中では長時間にわたって
責めを受けた身体が軋んでいたが足取りはいつもと変わりはない。
先程ダンブルドアが消した傷、あれは印だ。治そうが消えるものではな
い。スネイプはハリーが噛んだ所にそっと口づけた。微かに血の味がし
たような錯覚を覚えた。


【補足】
書いていて「あなたが噛んだ小指が痛い♪」という歌のフレーズが脳裏
をよぎりました。古い(笑)舌か指か迷ったのですが、舌って加減間違うと
ものすごく危険だなと思って指にしました。

(2011.12.25)
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