| ルシウス・マルフォイから F・マルシベールへ 1978年8月某日 元気でいるか？貴様の活躍は、私の耳にも逐一届いている。マイ・ロード もとても満足していらっしゃるようだな。 私は本部で内勤だが、ナギニの世話係にあたってしまった。生餌でない と駄目なので苦労している。ナギニがマイ・ロードと一緒の時は、拷問した 奴を手づからお与えになるので楽なのだがな。あの御方は、今はおられ ぬ。外国に勢力を伸ばしていくおつもりなのだ。 うちで用意させてハウスエルフに持ってこさせているのだが、ナギニがハ ウスエルフごと丸呑みにするので三人犠牲になった。 屋敷しもべは、我が家の財産の一部なので困ったものだ。父上に知れたら 良い顔はされまい。セブルスに相談してみたら、肩をすくめられた。ホグワ ーツ入学時から私が面倒をみてきたというのに薄情なものだ。 それはそうとナギニはテーブルの上を這うのが好みなのだが、結構ウロ コを落とすのだ。うっかり手を切ってしまうことがよくあるのも憂鬱の種だ。 呪文で大人しくさせたいが、パーセルマウスのマイロードに告げ口されそう でうかつなことができない。ナギニのウロコを同封するので、ペーパーナイ フとしてでも使え。よく切れるぞ。 もうひとつの懸案は、スリザリン寮創立１０００年記念式典のことだ。 もちろん正確な年は特定できないわけだが、実行委員たちが大体このあた りだろうと決めた年に開催することにした、あれだ。マルフォイ家も企画段 階から関わっており、具体的なことを決めなければいけない時になると 伝統を重んじるわが寮の気質としていっそう話はややこしくなってくる。 スリザリン出身の歴代校長や各家にあるスリザリン出身者の肖像画を会 場に運び込み、生きている者も含めて席順を決めるだけでも大仕事だが、 一番の問題はもちろんあの御方のことだ。招待状の宛名はヴォルデモート 卿にすべきなのか、それとも卒業名簿に載っているとおりご本名トム・リド ルにすべきなのか…。 そもそもこのような集いにどのような感情をお持ちなのかもさっぱり推察で きないので困っていたのだ。ところが、このあいだマイロードの執務室の 机の上に「実践・“さすが”といわれる魔法使い・魔女集会の締めのスピー チ!」、「できる魔法使いの黄金スピーチ技術!」というタイトルの本が付箋を 貼ってある状態で置いてあるのを発見してしまった。 となると、もちろんこれはお願いせねばならないだろうが、聴衆にとって 相当にデンジャラスな経験になる事は間違いない。空気を読んで拍手が できる「さくら」を配置しておく必要があるだろうな。何事も念には念をいれ て準備しておくにこしたことはない。 前回の９００年記念の時のことを、フィニアス・ナイジェラス・ブラックの 肖像画に訊ねてみようと、ナルシッサを伴ってロンドンのグリモールド・ プレイス12番地のブラック邸を訪れたのだが、あの家は予想を遙かに 上回る悲劇的な状況だった。何しろシリウスを廃嫡にしたうえに、レギュラ スがあんなことになったからな。我々に粛正されたと巷で喧伝されている がそうでないことは貴様も知っているだろう。真相は闇の中だが…。 私はブラック三姉妹の次女アンドロメダのようにマグル出身の者と駆け落 ちしてマグルの世界で生活しているのではないかと思っているのだが、ナ ルシッサは否定的だ。 伯父上は屋敷に引き籠もって世捨て人同然、伯母上はショックのあまり 錯乱状態だった。ハウスエルフのクリーチャーだけが以前のまま丁重に 応待してくれたが、いかにも荒廃した空気が漂っていた。純血の中でも 最も古い名家の一つであるブラック家がこのような事態に陥るとは嘆かわ しいかぎりだ。実は、この機に乗じてフィニアス・ブラックの肖像の一つ に我が家に極秘にお越しいただいたら(死んでも虚栄心はますます高ま っているので適当に煽てれば可能だ)、ホグワーツ校長室の情報が入る のではないかと考えたのだが、セブルスに我が家の状況も向こうに筒抜 けになると指摘されて残念だが諦めることにした。 最後になるが、マイ・ロードから秘物をお預かりした。すぐにグリンゴッ ツのわが家の金庫に入れ、それ自体は名誉なことではあるのだが、同じ 命令をレストレンジ夫妻にも下されていた。わが家は、古い日記帳で、 レストレンジ家は金のカップだ。こんなことを言うものではないが、逆が良 かった。 何かと気の重いことが続いているので、気晴らしに杖を新調した。もちろ んオリバーの店のものだ。本体は楡の木、芯はドラゴンの心臓の琴線だ。 使い心地はすこぶるいい。さらに我が家お抱えの職人に、私好みの意匠 を凝らした鞘を誂えさせた。今度会った時に見せてやる。 近いうちにまた会おう。 （2011.8.16） |
