凍えていた心が熱に溶かされていく。
そして、そのことがひどく息苦しい。


「声を聞かせて」

 彼に不意に話しかけられた。私の自室でお互いに一糸纏わぬ姿で
四肢を絡ませ合い、私は首筋や胸元を這う濡れた舌の生あたたかい
感触に皮膚が痺れていく快感を堪えていた。
身体の奥深くの湿った粘膜が荒々しく犯されるのを待ち侘びて収縮して
いる。浅ましい肉の喜び、それが私の本性だ。歯を食いしばり唇を噛ん
だがいつまで持ち堪えられるのだろうか。

 この歪な関係の始まりは、単なる暴力だったと記憶している。私は魔
法界の希望、ハリー・ポッターが嫌いだった。彼の外見が私がかつて
失ったもの全てを再現していたからだ。鮮やかなグリーンアイ、癖っ毛に
眼鏡、クディッチの才能。幼い頃から成人するまでの憧憬の全てだ。姿
を目にすれば否応なく過去が蘇ってきて発狂しそうになった。私は彼を
疎ましく思っていることを隠さなかった。ハリー・ポッターもまた私の露骨
な嫌悪に敏感に反応し、私に真っ向から反抗してきたので容赦なく欠点
をあげつらい続けた。もともと私の教育者としての資質に問題があった
のだろう。ポッターにしてみれば降って沸いた災難以外の何者でもない。
表側だけで攻撃されるのだから。彼の中身は平凡な子どもに過ぎなかっ
た。彼の見た目が両親に生き写しでなければ私は一顧だにしなかった
に違いない。
 あの日、ポッターが彼からすれば理不尽に父親を侮辱する私に、つい
に感情を爆発させて殴りつけてきた。床に倒れた私の意識が戻った時、
ポッターは激情に駆られて私の身体を暴こうとしていた。彼の目に宿っ
ていた暴力と性的な欲望を認めた時、私はそれを受け止める事にした。
ポッターを慮ってのことではない。私にはそれが相応しいと思ったから
だ。ポッターが私の中に射精するまでそれと気取られないように手順を
教えたが、不慣れなポッターに身体を弄られても当然苦痛しかもたらさ
れなかった。それでも私は満足だった。尻から零れた精液が内腿を濡ら
す感触に眉を顰めながらも、笑いが込み上げて仕方なかった。生徒に
犯される教師、情けなくて私にぴったりの役回りだ。そもそも私はハリ
ー・ポッターを守護する任務の為に教師になったのだ。守護する相手に
犯されるなんて最高に面白い。苦痛の代償を払うだけのことはあったと
思い、裸のままくすくすと笑い続けた。
その後、ポッターに会った時に揶揄するつもりで誘った。ポッターは私を
軽蔑して逃げ出すだろうと思っていたのに意外なことにポッターは再び
私と寝た。想定外の事態だったが、十代の少年の性的な好奇心と欲望
を満たす相手になるのは悪くなかった。
秘密の関係を続ける内にポッターは私の身体を思うままに支配すること
に快感を覚え始めたようだった。私に快楽を与える存在になることで上位
に立ったと思えるのだろう。男の身体は自分自身で快楽を得ることがで
きるものだということをポッターは自分ではわかっているのだろうが、
それが私にも適用されるとは思わないのだ。しかし、回を重ねるごとに
ポッターの愛撫は上達したし、それに溺れることは心地よかった。少年
の慰み者になっている自分が可笑しくて仕方ない。
 私は多忙だ。ホグワーツでの教師の仕事、不死鳥の騎士団と闇の陣営
をWスパイする任務を遂行していると神経が摩り減る。時々、ポッターと
寝て散々貪られると気が晴れた。自分の滑稽さを時々再確認すると良い
息抜きになる。しかし、ポッターは次第に私というより私の身体への執着
心が募っていったようだった。夏期休暇中に、不死鳥の騎士団関連の
用事で、宿屋の個室で不死鳥の騎士団に情報を流す約束をした人物を
待っていたところにポッターが乗り込んできた時には、驚きと同時に内心
舌打ちしたい気分だった。そして自由奔放なカルメンを愛して苦しんだ
ホセさながらに嫉妬を露わにしたポッターに無茶苦茶に陵辱された。
流石の私も疲れ果てたが、行為の後に私から身体を離したポッターの顔
を何気なく見た時、唐突に自分が誰と何をしているのかわからなくなっ
てしまった。彼は少年から青年になりかけている誰かだった。ポッターが
何故かひどく哀れに思えて、身体だけでも慰めてやるつもりで彼の象徴を
口に含んで愛撫した。ポッターは拒絶しなかった。私の髪にそっと触れな
がら私の愛撫に身を任せていた。一度放出した後、もう一度身体を繋げ
た。ポッターが私を愛撫し挿入しているのに、私がポッターを抱いている
のだという実感が私を支配していた。
 あれで最後にすれば良かったのだと、後になって何度も後悔した。
私の過去にポッターを巻き込んでしまった。ポッターは外見的には
両親の再来だが、中身は違う。その事に最初から気づいていた筈なの
にそうではなかった。ポッターから離れようとする毎に、彼自身に近づい
ていく。今、私は彼自身と関係していることを実感しているが、そのこと
を彼に絶対に知られたくない。私の身体の隅々まで知り尽くした彼が、
丹念に私を愛撫する。逞しい彼自身が私の身体の内に差し入れられ、
敏感な粘膜を何度も擦りあげられる。堪えきれなくなって、ついに声を
あげてしまった。一度解けてしまうともう止められない。ポッターが、噛
み締めていたために傷ついた私の唇を優しく舐めて慰めてくれた。

「もっと感じて、僕のことだけ見て」

彼が耳元で囁く声にも身体が熱くなる。その声は他の誰にも似てい
ない。 

(2011.11.20)

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