The Dream of Love

 学生ハリーとスネ教授です。DIARYのSSにこの二人のSS(インタビュ
ーのおまけ)がいくつかありますので、よろしかったらそちらもどうぞ^^)




 決戦が終わり、平和な学校生活が戻ってくると生徒たちは暗い時代を
あっさりと忘却しホグワーツには明るい空気が戻っていた。バレンタイ
ンが近づくととみに学校中が甘い匂いに包まれたように活気づいていた
が、今年は教師陣も一部を除いては大目に見る傾向にあった。その
中で魔法薬学教授セブルス・スネイプは薬品庫を厳重に管理し、疑似
恋愛作用をおこす薬を作成した者を見つけ次第、本人を魔法薬学の
授業で毒薬の実験台にすると警告していた。
 バレンタイン当日の夕食の時間も終わりに近づいた頃、四羽の梟が
深紅の薔薇を零れ落ちそうなほど詰めた大きな籠を下げて大広間に
入ってきた。それぞれ翼を雄々しく羽ばたかせながら両脚の鋭い爪
で籠の柄をしっかりと掴んでいる。ダイアゴン横町のフラワーショップ
の梟だということは脚につけられている店のマークでわかる。四羽の
梟は大広間を華やかに各寮の学生用テーブルのかなり上を飛びな
がら横切り、一同の注目を集めた。そして正面のマクゴナガル校長の
左隣の魔法薬学教授の頭上までくると花籠をテーブルの上に静かに
下ろして置いたが、幸いな事に教授の皿は既に下げられており、ゴブ
レットは手に持っていた。犯罪容疑が晴れて魔法薬学教授に復職した
セブルス・スネイプは最近若々しくなったと教授陣や学生たちの間で
密かに評判になっていた。まだホグワーツに在籍している魔法界の
若き英雄が尊敬の想いを明らかにし、常に寄り添うようにして教授に
奉仕していることは周知の事実だった。英雄曰く、この十数年スネイプ
教授は自らのことは省みずにストイックに任務を遂行してきた。自分
が在学している間はそのせめてもの埋め合わせをしたいというのだ。
そのスネイプ教授は薔薇のぎっしり詰まった特大の花籠を前に言葉を
失っている様子だった。リーダーらしい梟が尖った嘴で花籠の中に入
っているカードを摘み出して教授に渡すと任務完了とばかりに梟たちは
飛び立った。天井近くで一列になると優雅に羽ばたきながら去っていく。

「まぁ、ロマンティックなこと。あなたも隅に置けませんね、セブルス」

マクゴナガルがスネイプに話しかけた。いつも厳格な瞳が好奇心で輝
いている。女性という者はいくつ年を重ねても花束を見ると興奮せずに
はいられないらしい。

「公衆の面前で私に恥をかかせようとする者の心当たりはあります」

 平然とした口調でマクゴナガルに答えるスネイプの視線の先にはグ
リフィンドールのテーブルでいつものように下級生たちに囲まれている、
魔法界の英雄の横顔があった。眼鏡をかけた緑の瞳は自分を見上げ
ながら何事か質問する幼いまるい顔に向けられている。つと視線を逸
らすとゴブレットをテーブルに置いてスネイプ教授は席を立った。残さ
れた花籠を皆が気にする間もなくどこからか現れたハウスエルフが花
籠の柄をさっと掴むとポンッという大きな音とともに消えた。教授の部屋
に姿現しして花籠を届けるのだろう。

 スネイプが地下室への階段を降りきって自室の扉を開けると部屋は
既に暖められてあった。大型ストーブの前のお気に入りのソファの前
のサイドテーブルには、熱湯を注げばよいだけの状態で茶葉が入っ
たティーポットとティーカップがいつものように用意してある。近頃で
は自分の部屋に戻るとまずはソファに座って紅茶を飲む事が習慣に
なりつつあった。そして今日はテーブルに薔薇を活けた硝子の花瓶も
置かれてあった。部屋を見渡せばあちらこちらに先ほどの薔薇が飾ら
れてあり、スネイプが大食堂から自室に辿り着くまでの間に部屋中の
飾り付けを終えてしまうハウスエルフという妖精の仕事ぶりには驚嘆す
るほかない。パーティーションで区切られた寝室と新しく作られたばか
りのバスルームは見てみるまでもないだろう。装飾が排除されたスネイ
プの部屋を薔薇は艶めかしい色ばかりでなく、香気でも彩っていた。
スネイプは、梟から渡されたカードを封を切らないままストーブの焚き
口を開けてくべてから、普段通り沸かしたての熱湯で紅茶を淹れて飲ん
だ。いつもならその後は読書をしたりして過ごすのだが、今日はバスル
ームに向かった。バスタブは既に湯が満たされてあり、ここにも深紅の
薔薇の花片が浮かべてあったので、スネイプは思わず苦笑したが
そのまま入浴した。花片は邪魔だったが、湯から出てもほのかに香り
が肌に残った。コンコンと弾んだノックする音に、

「勝手に入れ」

と答えると防寒用のマントを腕に下げて勝手知ったる顔で部屋に入っ
てきたハリー・ポッターはスネイプが素肌にバスローブを羽織っただけ
の姿だったので驚いた。

「すみません、お風呂に入っていらしたんですね。僕、出直してきます」

「別に構わん。もう髪も乾かしたところだ」

風呂上がりのせいかスネイプは頬を微かに上気させて実際の年より随
分と若く見える。

「箒に二人乗りして夜空をドライブしようと思ってたんです。カード読みま
せんでした?」

「読むわけなかろう。あんな人前で笑い者にされてはかなわない」

ハリーは仕方ない人だという表情を作って見せたが、内心ひどく動揺し
ていた。いつも黒衣で身体を包み隠し禁欲の権化のようなスネイプに
魅了されているが、今夜の無防備な頼りなさはどうだろう。ハリーは
スネイプの自分の魅力に無頓着なところに惹かれているのだと改め
て自覚した。

「今夜はドライブは無理ですね。また風邪引いちゃったら大変だし」

そう言いながら、マントの中に隠し持っていたプレゼントをスネイプに手
渡した。上品な包装から高級菓子店のものだと知れる。

「これマグルの店のものなんです。僕、チョコレートはマグル製のほう
が美味しいと思うんです。ちょっと魔法省から呼ばれたのでその時に
買ってきました」

いつもならば、バレンタインデーに同性の教師にチョコレートを贈る
非常識を詰られて丁々発止の遣り取りが展開されるはずなのだが、
スネイプは軽く頷くと、

「ここでおまえも食べていけ。私はチョコレートは一つか二つしか食
べられないから」

毒味役をしろというスネイプ流のジョークかも知れなかったが、

「紅茶でいいか?エルフ製のワインか蜂蜜酒もあるぞ。おまえは成人
しているから別に構わないだろう」

と杖を振る姿勢で聞かれたので、ハリーは面食らったが紅茶を所望す
るとテーブルの上に二人分の紅茶のセットが現れた。スネイプ自ら
ストーブの上のケトルからポットに熱湯を注いで紅茶をサーブしてくれ
る。ポットからティーカップに熱い紅茶を注いでくれる無駄のない美し
い所作が見たくて紅茶を所望したハリーは至福の時を味わいながら、
ミルクを先にいれるべきか後に入れるべきかというスネイプの科学的
考察を聞き流していた。自分の考えに白熱してきたスネイプが脚を組
み替える度にバスローブが着崩れ膝頭や白い腿までちらりと見えるの
で目のやり場に困りつつも視線をそこに向けていると、不意に赤いも
のが目に映りはっとした。

「先生、血が!」

「ん?」

突然話の腰を折られてハリーの視線の先の自分の足を下を向いて見
たスネイプは、あぁとローブの裾を軽く肌蹴た。先ほどよりしっかりと見
える白い腿にハリーはごくりと唾を飲んだ。

「湯に浮かんでいた薔薇の花片だ。ハウスエルフが湯に入れたのだ」

そう言うと細くて長い指の先に真っ赤な薔薇の花片をつけてハリーの
鼻先に突き出した。

「怪我かと思いましたよ」

笑いかけたハリーの唇に花片が貼られた。スネイプらしくない悪戯に
ハリーはいよいよ動揺してしまった。あの白い腿にくっついていたもの
が自分の唇にくっついていると思うとそのまま飲み込んでしまいたい
がそれは人としてどうなのか。硬直しているハリーにスネイプは、他に
も花片がついているかもしれないと言いながらバスローブのベルトを
解こうとするので咄嗟に手を出して止めてしまった。二人の身体が
密着したことでハリーは衝動的にスネイプの唇を塞いでいた。こんな
筈ではなかったのだ。もっと段階を踏んで親しい関係になっていく予
定だったのに、こんな急に口づけて歯をぶつけてしまうなんてまったく
無茶苦茶だ。ハリーの脳裏を支離滅裂な考えが渦巻いている傍でス
ネイプは落ち着き払っていた。

「花片が私のところに戻ってきた」

赤い舌がちろりと唇を嘗めて花片を飲んだ。

「キスというものはこうするものだ」

そう言うとスネイプが口づけてきた。スネイプの舌がハリーの口腔に
侵入してくるとハリーの舌を探り当てぬるりと絡まり軽く吸われる。
息継ぎができないハリーが苦悶の表情を浮かべると唇は離された。
荒い呼吸を何とか整えかけたハリーにスネイプは、

「こういうことがしたかったのではないのか?おや、おまえの身体は正
直だな」

そう言うとほっそりとした手がハリーの股に宛てられた。そこは濃厚な
口づけに反応して高ぶりかけていた。

「私の身体にまだおまえがくれた薔薇の花片がついているかもしれな
い。探してみるか?」

細い手がハリーの手を取ると自らの腿に宛てて付け根の方に這わせ
ていく。滑らかな感触に箒に始終乗るために肉刺ができた手を震わ
せていたハリーは秘密の場所に辿り着く直前にうわぁーと意味不明
な叫び声を上げて部屋を飛び出していった。スネイプは開けっ放しの
扉から倒けつ転びつしながら階段を這い上がっていく情けない後ろ姿
を見送ってから、扉を閉めた。杖を振ってテーブルの上にエルフワイ
ンとゴブレットを取り出す。ワインをゴブレットに注ぐと一気に飲み干し
た。すぐにまたワインをゴブレットに注ぐとこんどはゆっくりと喉で味わ
う。ふん、これぐらいの刺激で逃げ出すとはあいつはまだ子どもだ。
所詮ポッターはままごとが楽しいだけなのだ。大人を舐めてはいけな
い。これでしばらく静かだろう。そんな事を考えながらスネイプは無意
識に指で唇に触れていた。

【補足】
DT攻を書きたかったのでした(笑)このスネ教授は誘い受けというか
襲い受けっぽいのですが、まだハリーに対して恋愛感情は自覚して
いません。ま、減るもんじゃないしって感じで大人の立場でハリたん
にガツンと性的指導をしました的な話です。あんまり色っぽい人じゃ
ないみたいです。

(2012.2.14)


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