Date 後編

 いきなり現れた闖入者にハリーが不機嫌になっていると、ドラコが
セブルスの前に進み出て挨拶をした。

「はじめまして、プロフェッサー・スネイプ。ドラコ・マルフォイともう
します。ちちうえからよくホグワーツやスリザリンのはなしをきいて
います。がっこうににゅうがくするのがたのしみです」

よく躾の行き届いた口調と物腰に、セブルスも頬を緩めた。

「スリザリンに来るにはまず組分け帽子を被らなければいけない
が、君が入寮した日にはスリザリンは優秀な生徒を一人獲得
することになるだろう。我が輩も君の入学してくる日を楽しみに
している」

と滑らかな口調で話しかけて、ドラコと握手を交わした。ドラコの
白い頬にさっと朱が差したのを見てハリーはますますいやな気分
になった。すぐにドラコは礼儀正しく父の後ろに下がって父親たち
の会話を聞いていたが、ふとハリーの方を見ると、ふんと嘲笑す
るような表情を浮かべた。

「ハリー?」

ハリーが静かにしているのを不審に思ったセブルスが声をかける
と、ハリーはぽんっと軽く弾んで一歩前に出るとドラコに向かって
にっこりと微笑みかけた。常々シリウスが絶賛し、セブルスもひそ
かにとても可愛いと思っている人懐っこい笑顔だ。咄嗟の事に呆気
にとられているドラコに構わず、またセブルスの横まで飛び跳ね
て戻ると、セブルスのマントをぽっちゃりとした小さな手でくいくいっ
と引っ張ってハリーを見下ろすセブルスに上目遣いにふふっと笑
いかけた。いつもの屈託のない笑顔だった。それを潮にセブルスは
マルフォイ親子に別れを告げると、ハリーと手をつないでまた歩き
だした。フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラー
の前で、ハリーは店主に声をかけられた。

「ハリー、今日は寄っていかないのかい!」

ハリーはシリウスがしょっちゅうこの店に連れてきてくれるので
常連客の一人なのだ。ハリーがセブルスを見上げると、

「リリーには内緒だぞ」

と言って、テラスで休憩することになった。
ハリーは、わがはいはシリウスと同じことを言うなと思ったが、
わかったと元気よく答えた。ハリーはいつも頼んでいるサンデー
で、セブルスも同じ物にすると言ったので吃驚したが嬉しくなっ
た。テラスに座っていた若いカップルはセブルスの姿を見て、明
らかに動揺してなるべく顔がセブルスの視界に入らないように俯
きながら、もう卒業しているから大丈夫だとひそひそ囁き合って
いた。

 すぐにサンデーが二つ運ばれてきたが、店主が気を利かせて
ハリーにはいつも通りのストロベリーだが、セブルスにはチョコレ
ートのソースをかけてあった。

「わがはいの、ひとくち食べていい?」

口の周りを早速アイスクリームで白くしたハリーが頼んできた。
セブルスが好きなだけ食べていいと言うと、ハリーはセブルスの
サンデーにかかっているセブルスからすると甘すぎるチョコレー
トソースがかかったところを、わぁ、にがいねぇと言いながらスプ
ーンですくって食べた。

「ぼくのも食べてみて!」

とハリーがきらきらした瞳で勧めてきたので、セブルスもハリーの
サンデーから一口もらった。ハリーは普段血の気のないセブルス
の唇がストロベリーソースで赤く色づいたのを見てこっそり可愛い
なと思った。
 いつもシリウスたちと出かけるばかりでわがはいと出かける
機会がほとんどないので、どうしてもわがはいと出かけてみたい
とお願いしてみて本当によかった。両親はセブルスは忙しいので
諦めるように言い聞かせたのだが、ハリーがセブルスがポッター
家を訪問した時に思い切って直接頼んでみるとあっさり願いが叶
ったのだった。
 今日のような一日をデートというのだ。ハリーは、ずっと俯いて
いるカップルをちらりと見ながら思った。あのマルフォイ親子が現
れた時は、危うくすべてが台無しになるところだった。ホグワーツ
ではわがはいのいるスリザリンに絶対に入るつもりだが、この間
の金色といい、今日のきゅうりみたいな親子といい、まったくいや
な感じだ。

「ハリー?退屈だったのではないか?」

急にセブルスにそんな事を言われてハリーは驚いた。

「すごくたのしかった!またわがはいとデートしたい!」

しまった、うっかり口が滑ったとハリーは焦ったが、セブルスが
可笑しそうに吹き出したので、不本意ながらへへっと笑ってごまか
したのだった。

「ハリー、寒くはないか」

「ううん、全然。このマントあったかいね」

お揃いのマントで二人並んで歩きながら、ぽつりぽつりとする
会話が嬉しくて仕方ない。わがはいと一緒にいるといつでも最高
にハッピーだ。でも、もうすぐその楽しい時間が終わってしまうと
ハリーが急にしょんぼりしていると、セブルスが急に杖腕を上げ
た。次の瞬間、轟音と閃光に襲われてハリーはその場にしゃが
んでしまった。目の前に派手な紫色の三階立てのバスが止まっ
ている。

「夜の騎士バスだ。ハリー、ドライブして行こうか」

いつも落ち着いているセブルスらしくない悪戯っぽい目で提案
された。

「わぁ、ぼく、これにのってみたかったの!」

ハリーは気持ちが一気に高揚してセブルスに手を取ってもらっ
てバスに飛び乗った。セブルスが熱いココアがついた13シック
ルのチケットを買ってくれた。素晴らしい一日にまだ続きがある。
そう思うと嬉しくてハリーはセブルスにとっておきの笑顔をみせ
たのだった。


【補足】
その後はあのバスに乗ったからには、急ブレーキでセブルスは
顔にココアをぶっかけ、ハリーは空中を舞う羽目になったと思わ
れます。でもいい思い出になったと思います。

(2011.10.20)

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