Date 前編

 揃いの黒い旅行用のマントを纏った二人連れが、ダイアゴン横町に
現れた。黒髪を肩まで垂らした痩身の男と、彼の腰のあたりでふわふ
わした癖毛を揺らしている小さな男の子で、髪の色は同じだが親子に
は見えない。しかし彼らを見て誘拐を心配する者はいなかった。
大人はあのホグワーツの若き魔法薬学教授セブルス・スネイプで、
子どもは毎週のように両親やゴッドファーザーとこの界隈に遊びに来
ていて、両親そっくりの容姿と人懐っこい性格で通りに面した店の者
たちの人気者になっているハリー・ポッターだったからだ。スネイプ
教授とハリーの両親が同窓生であることは有名な話だ。今日のハリ
ーは普段と違い、澄ました表情でよそ行きのマントを纏って歩いてい
るが、グリーンアイはいつものようにきらきらと輝き黒いマントによく映
えている。母親に頼み込んで、セブルスと同じマントを作ってもらった
のだ。実は釦は飾りで裏にマジックテープがついており楽に脱ぎ着が
できるようになっている。ポケットは魔法で見た目の百倍の容量が
あるが軽く、これはハリーは知らないことだがGPS機能つきだった。
 最初に二人が訪れたのはフローリシュ・アンド・ブロッツ書店だった。
セブルスの姿を見たホグワーツの卒業生とおぼしき若い魔法使いと
魔女たちが、さながらモーゼの奇跡のようにさっと左右に分かれて道
を開けたのでハリーは不思議に思ったが、セブルスは微かに会釈し
てハリーを連れて店主のところに歩いていった。注文していた書籍の
中をあらため、店主と新刊書について二、三言葉を交わすと、すぐに
外に出た。あとは気ままにウィンドウショッピングをしながら、二人で
ダイアゴン横町をそぞろ歩き、目に付いた店には入ってみたりした。
ハリーがイーロップのふくろう百貨店と魔法動物ペットショップに入り
たがり、そこで結構な時間を過ごすことになった。ポッター家には、
ハリーが生まれる前から猫のジョーがいるが、ホグワーツには連れて
行けそうになかった。ジョーはハリーの度重なる説得にも関わらず、
ホグワーツ行きに首を縦を振らずにいるのだ。

「君の初めての旅立ちだ。僕はそれを見送りたい」

と言うのだった。父に相談すると、

「猫というものは家に居つくものなんだよ。昔、僕の家の猫もジョー
と同じことを言っていたよ」

と遠い目をして話してくれた。ペットショップには猫もたくさんいたが、
新しい猫を飼ったら飼ったでジョーは気に入らないような気がした。

「わがはいは、ホグワーツで何をかっていたの?」

と聞いてみると、少しの間の後で、

「蛙だ」

という答えが返ってきた。それでは自分もカエルにしようかとハリー
が考えていると、

「最近の流行は、ふくろうのようだ。あれは手紙を運んでくれるし、
とても便利だ」

とアドバイスをくれた。イーロップのふくろう百貨店には、輸入物も含
めて恐ろしい数のふくろうがいた。ハリーは自分と同じように宝石の
ような目を光らせたふくろうを見て回ったが、真っ白な雪のようなふく
ろうに目が釘付けになった。ホグワーツに入学するのはまだ何年も後
だが、その時にはこんなふくろうを連れていきたいとセブルスに話す
と、セブルスも賛成してくれた。
 その後は高級クディッチ用品店と高級箒用具店のウィンドウからは
なかなか離れられなかった。いつまでも飽きることなく、目を輝かせて
クディッチ用の箒を見つめるハリーをセブルスは急かすことなく見守
っていた。
 オリバンダー杖店の前を通り過ぎようとした時だった。ちょうど店か
ら出てきた男が、

「おや、セブルスではないか。久しぶりだな」

とセブルスに声をかけてきた。男はブロンドの長髪に青白い端整な
顔をしており、いつかハリーがセブルスの研究室で鉢合わせした金色
の男にどこか似ていた。男もハリーと同じ年頃の子どもを連れていた
が、ハリーがジェームズと似ているのと同じくらい男にそっくりだった
ので、息子に違いなかった。

「これは、ミスター・マルフォイ、お久しぶりです。そちらはご子息です
かな」

とセブルスは丁重に挨拶した。

「あぁ、ドラコだ。次のマルフォイの当主だ」

そう言いながら、マルフォイはちらりとハリーを見た。

「おや、これはポッターの息子だな。恐ろしいほど父親と瓜二つだ」

金色の男と同様、父に対する侮蔑を含んだ口調にハリーは腹が
たったが、セブルスは淡々と

「瞳は母譲りです」

と答えた。

「あぁ、素晴らしい美女だったな。グリフィンドールには珍しく。それは
兎も角、このドラコも後何年かすればスリザリンに入ることになる。
その時にはよろしく頼むぞ」

と急に父親らしい態度でセブルスの手を取ったマルフォイをハリーの
美しい緑色の瞳が下から胡散くさそうに見上げていた。

(後編に続く)

【補足】
 ハリーが猫と話せるのは子どもだからです。ポッター家の子は猫と
話せるとかでもいい。
猫のジョーがホグワーツ行きを断っているのは、ハリーが学校に
行っている間に、ベッドで心置きなく昼寝がしたいからです。
ちなみにジェームズの思い出の猫も同じ理由で、ジョーの母猫です。
まだ生きていて、おそらく化け猫です。
 セブルスのペットを蛙にしたのは、ペットを飼う余裕がないセブルス
にリリーがプレゼントしてあげたりしてたらいいなぁと思って。
「あたしが池から卵を採って来て孵化させたの。この子、おたまじゃ
くしから蛙になった最初の子なのよ」
ってポケットからにゅっと蛙を出してセブに渡すのです。もちろん素手
です。


(2011.10.19)

inserted by FC2 system