どうしてここにいるのかわからない。
これから何処に行けばいいのかなんて知らない。

 ハリーは自分たちの世界が絶対だと信じているマグル一家の価値観の
中で育ったためか煙突飛行が不得手だった。
燃えている暖炉の中に入るという行為にどうしても不安を感じてしまい、
行き先をはっきりと発音する余裕がなくなってしまうのだ。
魔法使いといえば火炙りを連想することもおそらく影響している。
そういうわけで今も、ダイアゴン横町に行くはずがノクターン横町の暗がり
で途方に暮れていた。
数年前に、生まれて初めてフルーパウダーを使ったときも同じミスをした。
あの時は偶然、肉食ナメクジの駆除剤を探しにきていたハグリットに保護
されて事なきを得たが、今回はそういう幸運には出会うことはなさそうだっ
た。ヴォルデモート卿の復活が公にされて以来治安は悪化する一方で、自
分は誰あろう彼と再び対決する予定のハリー・ポッターだった。
ハリーは目の前を横切っていく男に視線を吸い寄せられた。フードを深く
被っているが、特徴のある横顔が見えた。あれはセブルス・スネイプだ。
途端にハリーの心臓は凍り付いた。この夏中、ずっと彼のことを考えて
いた。世界中の誰よりも苦手で、また最も会いたかった男だった。
 次の瞬間、表情を改め髪を引っ張って額の傷を隠し、自分もマントのフ
ードを目深に被ってスネイプの後をこっそりとつけた。
スネイプが酒場に足を踏み入れたので、少し間をおいてからハリーも店
に入った。スネイプは何度か来たことがあるらしい様子で、時々バーテン
ダーと一言二言話しながらカウンターに座っていた。
ハリーは柱の陰に席を取り適当に店員に料理と酒を持ってくるように頼ん
で、スネイプの様子を窺っていた。どうやら二階は宿屋になっているらし
い。店員が客を伴って階段を上り下りしている。
 若い男がスネイプに話しかけながらその隣に座った。話しかける様子
から知り合いではなくどうやら初対面らしい。スネイプよりはだいぶ若い
男で、明るい茶色の髪と同じ色の瞳をしていた。
わざとスネイプの耳に口を寄せて囁いたり、手を握ったりしている。
スネイプは特に嫌がるそぶりも見せなかった。
茶色の髪の男が通りかかった店員に何か耳打ちすると、店員は心得顔
で頷き、スネイプを伴って二階の階段を上っていった。暫くしてから茶色の
髪の男が階段を上っていく後を付けた。店員に呼び止められたが、間髪
入れずに金貨を握らせた。ドアをノックしようとしている茶色の男の背中
に声をかけ、彼が振り向いた瞬間に忘却呪文をかけてから、失神呪文を
浴びせた。床に倒れた男を抱きかかえて移動する。通りかかった先ほど
買収した店員に託し、朝まで空いている部屋で寝かしておくように頼んで
金貨を追加した。さすがに店員は躊躇ったが、恥ずかしい話なんだけどた
だの痴話喧嘩なんだよと説明した。部屋の中にいるのは自分の恋人なの
だが、つまらないことで喧嘩してしまった。追いかけてきたら、彼がここで
腹いせに知らない男と遊ぼうとしていたところだったと自分でも怖いくらい
すらすらと口から嘘が出た。しかし、店員は納得した顔で失神している間
男の世話を引き受けてくれた。

「不思議な魅力のある方ですからね。独特の雰囲気があって」

「そう、こういうお転婆なところも好きなんだけどね。たまには手綱を締め
なきゃね」

 野暮なことはいいませんよ、でもお手柔らかにねと笑いながら、店員は
茶色の髪の男を杖で宙に浮かべて空いた部屋を探しに行った。その姿が
見えなくなってから部屋をノックする。

「鍵はかかっていない」

という答えに杖を構えたままドアを開けた。
思いがけない人間の登場に、流石にスネイプは驚愕した表情を浮かべた
が、次の瞬間にはさっとハリーの横をすり抜けて部屋から出ていこうとし
た。それを許さず、杖で部屋に鍵をかける。

「これはどういうことですか」

「それはこちらの台詞だ、英雄殿。未成年が、ことにホグワーツの生徒が
このような場所におられるとはいかなる理由がおありになるのですかな」

いつものようにわざとらしいほど古くさい言い回しをして、スネイプは口を
歪めて嗤った。ハリーは美しい緑色の目を不穏に輝かせ、黒衣の腕を指
が食い込むほど強く捉えた。ハリーとスネイプの顔の位置は、ほとんど変
わらなかった。見上げてくるはずの瞳を正面から捉えたことにスネイプは
気づいたのだろうか。

「誤魔化さないでください。男を漁りにきたんでしょう。あなたという人は…」

「それのどこに問題がある。私は独身だ。休暇中に夜を誰とどのように
過ごそうと自由だ」

「淫乱なあなたが男なしで過ごせるわけがないと思っていましたが、こん
なところで見ず知らずの男をひっかけているほど飢えているとは思いませ
んでした」

「君と私の会話は全く噛み合っていませんな。とりあえず今夜は、漏れ鍋
か、君の親友の家にでもお送りしよう。大方、英雄殿は叔母御の家でお気
に召さないことがおありだったのでしょうからな。新学期が始まれば、校長
とミネルバに報告してグリフィンドールから減点することになりましょうな」

 動じることのないスネイプをハリーはベッドの上に突き飛ばした。
黒尽くめの男はあまり清潔とはいえないシーツの上に転がり、安物のベッ
ドが軋んだ。

「減点でも何でも好きにしたらいい。でも先生のお仕置が先ですよ」

 逃れようともがく身体にのし掛かり全体重をかけて動きを封じる。
スネイプのズボンを下着ごとおろすと腿に尻がのる格好で腹ばいにさせ
た。身を捩って逃れようとする小ぶりで真っ白な尻たぶを掴んで乱暴に揉
んでから、手を離し、勢いよく手の平で尻を打った。わざと高い音を立て
ながら続け様に打つ。剥き出しにされた尻は手の形に赤くなっては、次々
に平手で叩かれあっという間に赤く腫れた。ハリーの手のひらもじんじんと
痺れたが容赦なく打った。
スネイプは一発目に尻を叩かれた瞬間、ひゅっと喉を鳴らしたが、それか
らはシーツを掴んで歯を食いしばって屈辱に耐えていた。
しかし、尻ばかりでなく、耳やいつも青ざめている頬も紅潮させているとこ
ろをみれば、この折檻に苦痛ばかりを感じているわけでもなさそうだった。
ようやく尻を叩くのをやめて、手を内腿の奥に差しいれて擦りあげ、袋を
ぎゅっと掴んだ。抵抗はこれでおしまいだった。つかんだ袋を揉みしだいて
からその奥で硬くなり始めた性器を擦る。押し殺したスネイプの喘ぎととも
にハリーの手に白濁が放たれた。赤く色づいた尻の割れ目にそれを塗り
こめ、蕾に指を入れて乱暴に解す。腰を高く上げさせたまま、ハリーは
ジーンズの前を寛げ硬くそそりたつ自身をスネイプの蕾に押しあてた。
高ぶりで押し広げていくようにしながら挿入する。痛みと快感を同時に感
じながらハリーは腰を打ちつけ、程なくスネイプの中に射精した。ハリーが
犯した蕾の中からずるりと出ていくと、スネイプはうつ伏せたまま気だる
げな様子で自分を犯した男を見た。ハリーは激情に駆られる自分の思う
ままに振る舞った。スネイプの黒い目に映ったのは、精を放った後の束
の間の解放感と不機嫌を露わにした若い男だった。まだ少年といっても
いいくらいだ。泣きたいのはこちらの方なのに、傷ついたような目をして
途方に暮れたような様子で汗ばんだ身体は立ち尽くしていた。諦めに
似た溜息を零すと、スネイプはベッドの上を陵辱者の方に這っていった。
何処か蛇を思わせるような艶めかしい動きに、ハリーは金縛りにあった
獲物のように魅入られた。
ハリーの前に跪くと、その中心に顔を埋めた。
 スネイプの骨ばった指が、ハリーの腰に添えられている。スネイプに
とっては無意識のことだろうが、ハリーはその感触を意識した。薄い唇
がハリー自身を咥え、温かく濡れた口腔に包まれ、巧みな舌使いで舐め
あげられる。スネイプは、為す術もないように立ち尽くすハリーの中心に
顔を埋め唇だけで解放に導いた。ハリーが黒髪を掴んで低く呻いて果て
ると、スネイプは口を窄めて喉奥で全てを受け止めて、飲み下した。

ハリーは、スネイプを再びベッドに横たえた。軽く開かれた脚の間に身体
を入れて重なる。しっとりと汗ばんだ白い首筋に唇を寄せる。赤く色づい
ている胸の飾りに吸いついた。甘えかかるようなハリーの熱い愛撫をスネ
イプは喘ぎながら受け止めていた。骨ばった長い指を背中に感じて、ハリ
ーは苦しいほどの喜びで胸がいっぱいになる。
誰も知らない。二人きりの空間と時間だ。ハリーはこの夏の間中、いや、
初めて関係を持った時からずっと、スネイプと過ごすこの秘密の時間を
待ち望み続けていた。白い身体の隅々まで舌と唇で味わう。食べてしま
いたい。再びスネイプの中に自身を埋めると、硬い突起に熱くとろけた襞
がしっかりと絡みつき締めつけた。ハリーの腰の動きに合わせて、スネイ
プも身体を揺らして応えいっそう深く繋がる。お互いの荒い息づかいしか
聞こえない。それすら奪うように、ハリーはスネイプに口づけた。スネイ
プは苦しそうにしながらも舌を絡ませてきた。一つに溶け合ってしまい
たい。忘我の境地で、二人は一緒に極みに達した。

 すべてが終わった後、ハリーはスネイプの背中に密着していた。このま
まスネイプとずっと繋がっていたい。暖かく湿った内部から出ていきたくな
い。次の機会はないかもしれない。この狡い男は、今夜のことをきっと忘
れたふりをする。この関係を断とうとするかもしれない。心が手に入らな
いなら身体だけでも欲しいと思っていた。今日のスネイプは、途中から
ハリーを憐れんでいたような気がする。嫉妬で我を忘れて馬鹿なことを
口走って詰った。スネイプの目にハリーは可哀想なほど子どもっぽく見
えたのではないだろうか。そう思うと恥ずかしくて悔しい。
しかし、ハリーの身体を掴んだスネイプの手の感触を思い出すと泣きたく
なるような喜びを感じる。今、この時間は自分はスネイプに関心を持たれ
ていると確かに思えたのだ。スネイプは決してハリーを傷つけない。今日
も、杖と呪文を使えばスネイプの能力ならば簡単に逃げられただろうに、
そうはしなかった。自分と寝たかったのだと自惚れるほどハリーは愚か
ではない。
 夏休みは、例年通り最悪だった。母の守護を万全にするためだとダンブ
ルドアに厳命されているから仕方ないが、自分を疎ましく思っている伯母
一家と過ごすことは苦痛でしかなかった。それだけではない。スネイプに
会う手段が何もないと思うと、焦燥感で気が狂いそうになった。「罰則」
の時のスネイプを思い出しては自分を慰めながらも、今日、目撃したよう
な事をずっと恐れていた。
 長い黒髪に顔を埋めてから、白い痩せた背中の天使の翼の痕のような
窪みに唇を押し当てた。背を向けた男は為されるがままだったが、びくり
と滑らかな背を震わせた。
 長年にわたり偉大なダンブルドアに薫育され、世界中の人を救う希望に
なるべき導かれてきた少年は、安宿の淀んだ空気が漂う部屋で、仄暗い
欲望に耽りながら青年になりかけていた。


*補足…茶髪の男は本当は情報屋です。翌朝、ロンの家にスネが姿
現しでハリーを送って、そのままくるっとマントをひるがえして消えちゃ
った後の赤毛一家とハリーに気まずい空気が流れます。ビルがいたら
たぶんピンとくると思います。


(8月17日)

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