Bedtime

 なかなか眠れずに寝台の中で悶々と寝返りを打っていたが、ドアノブ
がまわる音がしたので慌てて壁の方を向いて背を丸めて眠ったふりを
する。

「セブルス、気分が優れないって?」

起きているとばれているのだろう、ジェームズが心配そうに声をかけてき
た。

「何でもない。寝てれば治るから」

なるべくいつも通りの声を出そうとしたが、どこか変ではないかと気が気
ではなかった。

「眠れないのかい?癒者からもらった薬をのんでみる?」

そう優しく話しかけられたが、

「何でもないから。少し疲れたから早く休むことにしただけだ」

背中を向けたまま答える。毛布から出ていた肩をそっと倒されて、仰向
けになってしまった。顔を見られるのが恥ずかしくて溜まらなかった。
きっと酷い顔をしているに違いない。

「ちょっとごめん」

と言ってジェームズが掛け布団ごと毛布を捲ったので、焦って取り返そう
としたが間に合わなかった。股間に大きな手が宛てられ、秘密を、性的
な欲望に昂り膨らんでいることを知られてしまった。

「ごめん」

ジェームズが謝ってきたので驚いてしまった。

「僕がもっと早くに気づくべきだった。入院中はこんな事がなかったから
君はそういうものを求めていないと思ってた」

 これは私の問題なのでジェームズに謝られるのはおかしな話だ。
気づかれないうちに処理してしまえばよかったと今更ながら後悔した。
聖・マンゴを退院して、この家で一緒に暮らし始めた時からずっと同じ寝
室を使っている。ジェームズは仕事で家を空けることも多いし、一緒に過
ごす時間は少しでも長い方がいいので、ジェームズから相部屋を提案さ
れた時に躊躇なく同意した。眠る前に話したり、夜中に隣のベッドにジェ
ームズがいることを確かめると安心する。
今の私たちは家族のようなものだ。ジェームズは別の生活も送れると
思うと罪悪感があるが、その好意に甘えてしまっている。これまでにも
時々、セクシュアルな感覚を覚えることがあったが、それほど強いもので
はなかったのでやり過ごしていた。しかし今日はついに抑えがたい欲望
の兆しにどうしようもなく寝台の中に逃げ込んだ。そこに元凶のジェーム
ズが現れて、結局ばれてしまったのだから滑稽な話だった。絶体絶命の
境地だったが、ふいにトイレという単語が閃いた。子供でもあるまいし、
どうして今まで思いつかなかったのだろう。ジェームズの脇をすり抜けよ
うとしたところで、手首を取られた。

「何っ?ちょっとトイレに…」

と言いかけた私をジェームズは寝台に戻した。それから自分も寝台に上
り私の後ろにまわった。腰から前に伸ばされた両手がパジャマの中に入
ってきた。私は恥ずかしさのあまり身を捩って抵抗したが、ジェームズは
私の右耳の辺りに頭を埋めて、

「じっとしてて。ぼくに任せて」

と囁いてきた。ジェームズの吐息が首筋にあたってびくりと震えてしまっ
た。ジェームズの手が私の茂みの奥や内腿の敏感なところに優しく触れ
て確かめてくる。やがて性器を両手で包まれて規則的な愛撫が施される
と、堪えようとしても声が漏れてしまう。

「そんなにガチガチにならないで。ぼくに凭れていたらいいよ」

首筋や肩に絶え間なく唇が落とされる。皮膚に与えられる刺激に、自分
の身体の奥から歓喜が溢れてくるのがわかる。与えられる快楽に溺れ
ていく感覚がとても怖い。一際強い刺激を与えられた瞬間に、恐怖と快
楽は弾けてジェームズの手を汚してしまった。荒い息を吐きながら、気づ
けば涙を流していた。ジェームズはその涙を舐めて私の瞼に口づけた。
私が目を閉じている間に、私を清めて衣服を整えてくれた。

「ごめんね。君は僕と寝たくはないんだろうと思ってたから。でもずっと君
にこういう風に触れたかった」

それは思いがけない告白だった。ジェームズの私に対する過分な親切は
同情と後悔に由来していると思っていた。その事を申し訳ないと思いつ
つ、どうしても離れられなかった。

 恐る恐るジェームズの顔を見た。眼鏡越しに見える明るい緑色の瞳が
欲望に濡れていた。ジェームズに身体を寄せてみる。身体の中心の固い
膨らみにそっと手を当てると、ジェームズは慌てて身を退こうとした。

「触ったらダメだよ。後でトイレに行くから!」

と困った声を出したので、思わず笑ってしまった。

「だめだ。今度は私の番だ」

とジェームズの耳に囁くと、トラウザーズの前をくつろげて既に昂りかけて
濡れている彼自身を両手で包みこんだ。ジェームズが自分の愛撫に反
応している様を実感する。やがて私の手はあたたかい白濁で濡れ、ジェ
ームズは溜息を零した。

「何だか学生時代に戻ったみたいだ。手でし合うとかさ」

と照れたように言うジェームズは本当に学生時代に戻ったように幾分子
どもらしい口調になっている。どちらからともなく唇を合わせて舌を絡め
合う口づけを交わした。それから、一つの寝台で二人で眠った。

(2011.11.6)

 
inserted by FC2 system