Love in the Afternoon

 
 目に疲労感を覚えて、読んでいた本から顔を上げた。壁の時計を見ると、
午後も既に半ば過ぎている。そして、また昼食を抜かしてしまったことに気づ
いた。朝も珈琲を一杯飲んだだけだったので、そろそろ何か食べなければい
けないと思うが、食欲はなかった。読んでおくべき資料には大方目を通した
し、寝室のベッドで一休みした方が疲れがとれるかもしれない。目が覚めた
ら、夕食のために外出するか、何か適当に作ることにしよう。閉じた瞼の
上を指で押さえながらそんなことを考えていたが、突然、慌ただしい足音が
廊下から聞こえてきたので、素早く視線を扉に向けて立ち上がった。ノックも
せずに扉が乱暴に開かれた。部屋に飛び込んできたのは予測通りの顔だっ
た。僅かに幼いところを残した若い顔には疲れの色が見えたが、瞳は生き
生きと輝いている。言葉をかける間も惜しむように壁に押しつけられ、激し
く口づけられる。闖入者はきつく抱擁しながら、片手で器用に衣服を肌蹴
ていく。彼の嫌いではない汗の匂いを嗅いでいると、自分の体臭が気に
なった。

「シャワーを…」

遠慮がちに囁くと

「いい、もう待てない」

と、答えながら逞しい腕はベルトを外し、トラウザーズを床に落とした。
壁に手をつかされ、下着を太股まで下ろされた。細い腰の括れから白く
小さな双丘の膨らみを節くれ立った指にまさぐられた。会陰を指でなぞら
れると腰が揺れる。窄まった蕾を撫でられ、潤滑油の冷たい感触に顔を
顰めた。背を向けているので表情は見えないはずなのに、

「ちょっとだけ我慢して。傷つけたくないから」

 それならこんなところで行為に及ばなければいいだろうと詰ってやりた
かったが、節くれ立った指が窄まりにずっと差し入れられてきたので、慌
てて声を殺すために歯を噛みしめた。敏感な粘膜を出し入れする異物の
動きに、呼吸が乱れはじめた。本数が増やされ充分に解されてから、やっ
と指が抜かれた頃には立っているのがやっとで壁にもたれて荒い息を吐い
て耐えていた。逞しい腕が細い腰をしっかり支え、熱い高ぶりが柔らかく解
された蕾に押し当てられる。どれほどの回数を重ねても挿入される瞬間の
痛みは消えない。指とは比べものにならない質量の物で身体の奥まで貫か
れる。最奥まで埋められたことを感じる時、いつでも二つの身体が一つに
繋がったことを実感する。休む間もなく律動が始まる。腰を打ちつけられ、
自分でも腰を振って応える。やがて、軽い呻き声とともに身体の奥に大量
の欲望が出された事を感じるのと同時に自分も達して白濁で床を汚した。
穿たれていた物がずるりと出ていく気配がする。髪や首筋に絶え間なく
口づけられ、行為の後で敏感になっている身体は、それだけでも震えて
しまう。振り向いて、唇を合わせると、しばらく夢中になって口づけ合った。

「もっとしたいけど、続きは帰ってからね」

 疲れ知らずの暢気な発言に眉を顰めて睨みつけたが、帰ってくるなとは
言わなかった。そういう不用意な発言はするべきではない。この数年の生
活で、身に染み着いた実感だ。
 何日も追跡していた被疑者をついに、ある隠れ家に潜伏していることを
突き止めたのが昨日のことで、上層部の判断で今日の深夜に突入するこ
とが決定したらしい。

「夜まで時間があるから、抜け出してきたんだよ。家からわりと近かった
から」

 交代で見張ってるから大丈夫、僕は夜まで仮眠をとることになってたから
などとしれっと話す。それから壁の時計を見て、大変だ点呼の時間に間に
合わないと大慌てで身繕いをすませると、

「じゃ、すぐ戻るから待っててね。今度はちゃんとベッドでしようね」

 と最後まで暢気な事を叫びながら、飛び出していってしまった。
嵐のような情事の後の書斎に一人取り残されたが、気を取り直してバス
ルームに向かった。しかし、引き返して寝室に行く。そしてこのまま眠るこ
とにした。身体中に情事の、彼の匂いが染みついているまま眠りたい。
目が覚めたら鍋で何かスープを作ろう。煮込んでいる間に、きっと腹を空か
せて彼は帰ってくるに違いない。そうだ、続きはその後だ。

(2011.9.11)


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